インテリジェントデザインとは何か?神の宇宙論的証明との関係と生命における秩序の究極の根拠となる設計者としての神の存在
前回の記事でも書いたように、インテリジェントデザインとは、人類や生命の存在を、偶然生じたものではなく、何らかの偉大な知性によって意図的に設計されたものであるとする考え方であり、
それは、偶発的な変異の積み重ねによって人類を含む多様な生命が形づくられていくことになるとするダーウィンの進化論などの主流派の科学理論に対抗する形で、
1990年代ごろのアメリカにおける反進化論団体や一部の科学者などによる議論を通じて主張されることになっていった新たな生物学的な学説であると考えられることになります。
そして、こうしたインテリジェントデザインと呼ばれる生物学的な学説は、そうした考え方の大本にある思想の流れをたどっていくと、
それは、哲学における神の宇宙論的証明といった神学的な議論と深い関係性のある概念であると考えられことになるのです。
インテリジェントデザインと神の宇宙論的証明における議論の共通点
冒頭でも述べたように、インテリジェントデザイン(intelligent design)あるいはその略称であるIDやID説と呼ばれる生物学的な学説においては、
生命の誕生は、偶然によってはなく、偉大なる知性(intelligence)を持った存在の意志の力に基づく意図的な設計(design)によってもたらされたものであり、
その後の原始的な生命からの動物や植物、そして、人類へと至る複雑な生命の展開のあり方も、偶発的な変異の積み重ねとしての進化ではなく、そうした偉大なる知性を持った存在による意図的な操作や介入によって必然的に導かれることによって生じた現象として捉えられていくことになります。
そして、それに対して、
古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスの哲学や、その後の中世ヨーロッパのスコラ哲学などにおいて示されている神の宇宙論的証明と呼ばれる哲学的な議論においては、
現実の宇宙における様々な事物の因果系列をどんどん過去へとさかのぼっていくことによって、最終的に、そうした宇宙に存在するあらゆる事物の究極の根拠となる第一原因としての神の存在を証明していくという議論が展開されていくことになるのですが、
そのなかでも特に、
中世スコラ哲学の大成者であるトマス・アクィナスがその主著である『神学大全』における「第五の道」として示されている神の宇宙論的証明の議論においては、
動物の目や鳥の翼といった複雑で精緻な構造を持った自然の造形が、それが人間の手によって作り出された人工物ではないにもかかわらず、特定の目的に適(かな)った秩序を有する存在としてつくり上げられていると考えられることから、
そうした自然の中の生命における合目的性と秩序の根拠として、この世界のあらゆる事物の究極の根拠にしてその設計者でもある知的存在としての神の実在性を論証する議論が展開されていくことになるのです。
生命における合目的性と秩序の究極の根拠となる設計者としての神の存在
以上のように、
現代において新たに唱えられるようになったインテリジェントデザインと呼ばれる生物学的な学説においては、
生命の誕生や、人類といった知的生命体への生命の展開のあり方は、偶然によってはなく、偉大なる知性を持った知的存在の意志の力に基づく意図的な設計によってもたらされたと説明されていくことになるのですが、
それと同様に、
古代ギリシア哲学や中世ヨーロッパのスコラ哲学の時代から繰り返し語られてきた神の宇宙論的証明と呼ばれる哲学的な議論においては、
生命や人類の存在をも含めた宇宙に存在するあらゆる事物の究極の根拠、さらには、そうした生命における合目的性と秩序の根拠として、それらの存在と秩序の設計者である偉大なる知性を持った知的存在としての神の実在性の論証が行われていると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
こうした古代ギリシアにおけるアリストテレスの哲学や、中世ヨーロッパにおけるスコラ哲学の時代から続く神の宇宙論的証明といった哲学思想のあり方が、その後の近代における科学思想の隆盛によって一度立ち消えとなっていったのちに、
19世紀以降の生物学の分野において、ダーウィンの進化論などの主流派の科学理論が広く受け入れられていくなかで、
それに対抗する理論として現代において新たな形で復活したのがこうしたインテリジェントデザインと呼ばれる新たな生物学的な学説であると考えられることになるのです。
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次回記事:無神論の立場から見たインテリジェントデザイン説の解釈と地球上の生命の設計者としての地球外知的生命体の存在
前回記事:フェルミのパラドックスとインテリジェントデザイン説の関係とは?レアアース仮説の宇宙論的議論から生命論的議論への展開
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