ユングの心理学はオカルト思想だったのか?学生時代のユングにまで遡るオカルト現象への傾倒と学問的探究における両者の違い
以前に「ユングの心理学と超心理学の関係とは?」の記事で書いたように、ユングの心理学においては、集合的無意識と呼ばれる無意識の深層を通じて全人類の心が一つにつながることによって、
物理的な空間を介した因果関係を超えて複数の出来事の意味のある偶然の一致が生じることになるというシンクロニシティ(共時性)と呼ばれる概念が提示されていくことになり、
こうしたユングの心理学におけるシンクロニシティと呼ばれる概念は、物理的に離れた場所に位置する二人の人間の心同士が互いにつながって情報を伝達することを意味する超心理学におけるテレパシーといった概念とも非常に近い関係にあると考えられることになります。
そして、こうしたユングの心理学においては、中世ヨーロッパにおける錬金術や占星術からマンダラや中国の易などの東洋思想、さらには、霊媒師を招いて行われる交霊術といったオカルト的な分野についての傾倒も見られていくことになるのですが、
それでは、こうしたオカルトとユングの心理学との間には、より具体的にはどのような関係があると考えられることになるのでしょうか?
学生時代にまで遡るユングのオカルト現象への傾倒と学問的探究の手法としての両者の違い
そもそも、こうしたオカルト思想やオカルト現象などと呼ばれる思想や研究対象とユングの心理学との関係は、ユングの学生時代においてすでに始まっていたと考えられ、
プロテスタントの牧師の家に生まれたユングは、学生時代にはすでに、ゲーテの『ファウスト』やニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』といった文学作品や思想書などに深く傾倒していくなかで、
文学や哲学、さらには、宗教学や神話学といった多様な学問分野についての造詣を深めていくことになるのですが、
例えば、
ユングがチューリヒ大学において助手を務めるなかで提出した学位論文のタイトルが「いわゆるオカルト現象の心理と病理」(Zur Psychologie und Pathologie sogenannter occulter Phänomene)となっているように、
多様な学問分野についての造詣を深めていく際、ユングは、特に、そうした人間の心の理性の働きが直接及ばないオカルト的な分野についても強い興味を抱いていくようになっていったと考えられることになります。
それでは、
こうした錬金術や交霊術といったオカルト思想やオカルト現象について深い関心を抱いていた心理学者であるユングの心理学自体がオカルト思想の一つであったと考えられることになるのか?ということについてですが、
それについては、必ずしもそのように見なすことができるというわけではなく、
ユングの心理学においては、あくまでも、神経症や精神病などの患者の心の治療を通じて得られた精神医学上の臨床的な知見に基づいた論理的思考に基づく学問的探究としてそうしたオカルトと呼ばれる現象や思想についての探求が進められていくことになるので、
少なくともそれは、合理的な思考に基づかない迷信や似非科学といった否定的な意味におけるオカルト思想とは異なる学問的な手法によって築き上げられていった心理学理論として捉えることできると考えられることになるのです。
ユングの心理学とラテン語の語源に基づく本来の意味におけるオカルトとの関係
そして、その一方で、
前回の記事でも書いたように、こうしたオカルトという言葉は、その本来のラテン語の語源に基づく意味においては、
それまでの常識的な思考を超えて、人々の心に新たな啓蒙の光をもたらしていく「秘密の知識」や「隠された真理」といった肯定的なイメージとしても捉えられていくことになるのですが、
そういった意味では、
集合的無意識と呼ばれる人間の心の最深部に存在すると考えられる人類全体に共通する普遍的な心の構造を解き明かそうとするユングの心理学における学問探求のあり方は、
単なる迷信や似非科学といった一般的な悪いイメージにおけるオカルト思想には当たらないものの、
それは、こうした人々の心に新たな啓蒙の光をもたらしていくことによって、それまで隠されてきた真理を解き明かしていくというラテン語の語源に基づく本来の意味におけるオカルトとは根源的な意味においては共通する方向性を持った学問探究のあり方として捉えていくこともできると考えられることになるのです。
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