エディプスコンプレックスという言葉に「オイディプス」ではなく「エディプス」という発音表記が用いられている理由とは?
エディプス・コンプレックス(Oedipus complex)とは、フロイトの心理学において、
3歳~6歳頃の幼少期の段階にある男児が、異性の親である母親に対して性的な願望へと通じるような深い愛情を抱き、その一方で、同性の親である父親に対しては憎しみや敵意の感情を抱く心的傾向を持つようになるという人間の心における無意識的な葛藤のことを意味する言葉ですが、
こうしたエディプスコンプレックスという言葉の由来は、ギリシア神話の中に出てくるオイディプス王(Oedipus)の悲劇に求められることになります。
そして、
日本語において、こうしたギリシア神話に登場する王の名前であるOedipusという言葉が「オイディプス」ではなく「エディプス」という発音表記で訳されているケースはほとんど見られないと考えられることになるのですが、
それが心理学における用語として用いられた場合には、なぜエディプス・コンプレックスというように、「オイディプス」ではなく「エディプス」という発音表記が用いられることになると考えられることになるのでしょうか?
エディプスコンプレックスという言葉に「オイディプス」ではなく「エディプス」という発音表記が用いられる理由
そもそも、冒頭で挙げた英語の表記においてもそのまま用いられているOedipusという表記は、もともとはラテン語の表記であり、
原語である古代ギリシア語においては、より正確には、Oἰδίπους(オイディプース)といった長母音を含む形で読むのがより正しい発音であると考えられることになるのですが、
こうしたギリシア語やラテン語におけるOedipusやOἰδίπουςといった単語は、他のヨーロッパ系の言語においては、
英語においては、Oedipus(エダプスまたはイーディプス)、
フランス語においては、Œdipe(エーディプ)、
ドイツ語においてはÖdipus(エディプス)
などととそれぞれ発音されることになります。
そして、
こうしたエディプスコンプレックスと呼ばれる心の働きのあり方を提唱した人物であるフロイトは、オーストリアの精神医学者であり、ドイツ語圏の学者であったと考えられるので、
日本語においては、主に、こうした概念自体の提唱者であるフロイトの母国語であるドイツ語の発音のあり方に従って、オイディプスコンプレックスではなく、エディプスコンプレックスという表記が用いられるようになったと考えられることになるのです。
「エディプスコンプレックス」と「エディプス・コンプレックス」ではどちらの方がより正しい表記であると言えるのか?
ちなみに、
こうした心理学における用語としてのエディプスコンプレックスという言葉は、この記事の冒頭の表記で用いたように、
エディプス・コンプレックスというように「エディプス」と「コンプレックス」という言葉の間が中点やハイフンによって区切られて表記されているケースと、
エディプスコンプレックスというそのまま一続きの形で表記されているケースの二つの表記パターンが見られることになります。
このうち、前者のエディプス・コンプレックスという表記は、
英語におけるOedipus complexという表記における単語の区切り方にそのまま従った表記のあり方であると考えられるのことになるのに対して、
原語であるドイツ語において、エディプスコンプレックスという言葉は、Ödipus(エディプス)とKomplex(コンプレックス、観念複合)という二つの名詞が複合名詞となって互いに結合したÖdipuskomplex(エディプスコンプレックス)という一つの単語の形で表記されることになります。
つまり、そういった意味では、
こうしたエディプスコンプレックスと呼ばれる概念の提唱者であるフロイトがドイツ語を母国語とする精神医学者であり、
この言葉が彼の著作や論文において用いられていた当初は、Ödipuskomplex(エディプスコンプレックス)というドイツ語の表記が用いられていたということを考えに入れると、
こうしたドイツ語の原語における表記のあり方に従って、中点やハイフンによる区切りを入れずに、「エディプスコンプレックス」というそのまま一続きの言葉として表記する書き方の方も、より厳密な意味においては正しい表記のあり方であると考えられることになるのです。
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次回記事:ギリシア神話のオイディプス王の悲劇と彼と家族のその後の物語①父ライオスによる息子殺しの命令とオイディプスの名前の由来
前回記事:フロイトの心理学において食欲や睡眠欲ではなく性的な欲求としてのリビドーがあらゆる心的活動の原動力とされる理由とは?
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