デジャブ(既視感)が生じる心理学的な三つの原因とは?
前回書いたように、デジャブ(既視感)とは、フランス語で「既に見られたもの」を意味するdéjà vu(デジャヴュ)という単語が語源となった言葉であり、
フランス語ではデジャヴュと発音される単語が英語式の発音ではデジャブと発音されることになります。
そして、通常の場合、こうしたデジャブあるいはデジャヴュと呼ばれる概念は、初めての経験であるにも関わらず、それを以前にも経験したことがあるように錯覚してしまうという一種の認知感覚の異常を意味していると考えられることになりますが、
それでは、こうしたデジャブ(既視感)呼ばれる現象が、こうした一般的な理解に基づくように、人間の認識の側の一種の錯覚として生じている現象であるとするならば、
そうした認知感覚の異常が生じてしまう具体的な理由としては、心理学的にはどのようなところにその原因を求めることができると考えられることになるのでしょうか?
過去の記憶との包括的な混同
まず、一つ目の最も一般的なデジャブの解釈としては、過去に経験した何らかの出来事についての記憶との混同が挙げられることになります。
例えば、
道を歩いていると、ふと目の前草むらから、以前に自分が飼っていたのと非常によく似た姿をした猫が這いだしてきて、目の前を通り過ぎていったとき、
通常の場合、人は、そうした現在の一連の認識を過去に経験した自分の猫についての記憶と比較して、その認識の一部が同じであったり、両者が似ているという判断を下すことになります。
しかし、
過去の記憶の内にある猫の姿と、現在の認識における目の前の猫の姿があまりにも瓜二つに似ていて、その細かな仕草や、道や草むらの様子や天候といった周りの情景までもがそっくりそのまま過去の記憶と一緒であると判断されることになると、
人間は過去の記憶の内にある出来事を現在の認識においても繰り返し経験していると感じることになり、一瞬にして過去の記憶の世界に戻ってしまったような違和感を感じると考えられることになります。
つまり、
こうした過去の記憶と現在の認識との間に、部分的なものではない、そっくりそのままの包括的な混同が生じてしまうことによって、
全く同じ出来事を二回経験しているように感じるというデジャブ(既視感)と呼ばれる認知感覚が生じてしまうことになると考えられることになるのです。
現在の知覚の瞬間的なリエントリー
次に、デジャブが生じてしまう二つ目の原因としては、
様々な感覚器官を通して得られた情報から一つのまとまった認識が形成されるまでに生じる認識や知覚の瞬間的なリエントリー(再入力)が考えられることになります。
目や耳といった感覚器官通して得られた刺激が末梢神経系や脊髄を介して脳の神経回路へと伝わり、一つのまとまった認識が形成されるまでには、一定のタイムラグが生じると考えられることになりますが、
そのわずか千分の数秒ほどのタイムラグの間に、感覚器官を通じて得られた刺激の一部が別な経路から再入力されてしまい、脳の神経回路に同じ刺激が二回伝達されてしまうような事態が生じることになると、
そうした二倍になった同じ内容の情報に基づいて、まったく同じ二つの認識が瞬時に形成されてしまうことになると考えられることになります。
つまり、
人間の認識や知覚が形成される経路において、こうした感覚器官を通じて得られた情報の別経路からの瞬間的なリエントリー(再入力)が生じることによって、
まったく同じ二つの認識が瞬間的に繰り返して現れることになり、それがデジャブ(既視感)と呼ばれる認知感覚として知覚されることになると考えられることになるのです。
夢や想像の世界の表象との連結
最後に、デジャブが生じる三つ目の心理学的な原因としては、
過去の記憶との混同でも、現在の知覚のリエントリーでもなく、人間の心の内にある夢や想像の世界における様々な表象との連結が考えられることになります。
夢の中で現れる様々な景色や感覚、そして、人間の想像力の豊かさをみれば分かる通り、
人間の心の内部には、夢や想像の世界を創り上げる源となる様々な表象や観念、あるいは、より分かりやすく言えばイメージといったものにあふれていると考えられますが、
そうした人間の心の内にある表象やイメージの力が限りなく増大していくと、それは現実の世界における様々な認識とも直接結びつけられるようになっていくと考えられることになります。
すると、
心の内にある夢や想像の世界の表象と現実の世界における認識が互いに強く結びついていくことによって、
最終的には、そうした現実の世界の内で起こる物事のすべてが自分の心の内にすでにあった既知の存在として感じられるような感覚が生じてくると考えられることになります。
つまり、
こうした夢や想像の世界の表象と現実の世界との連結に基づいて、
現実の世界における認識が自らの心の内にある夢や想像の世界の表象やイメージの再認識として捉えられることによって、デジャブ(既視感)と呼ばれる認知感覚が生じているとも考えられることになるのです。
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以上のように、
デジャブ(既視感)と呼ばれる現象は、それが新しい経験を以前にも経験したことがあるように錯覚してしまうという心理学的な現象として捉えられる場合、そうした認知感覚の異常が生じてしまう心理学的な原因としては、
①過去の記憶との包括的な混同
②現在の知覚の瞬間的なリエントリー
③夢や想像の世界の表象との連結
という三つの原因が考えられることになります。
そして、こうしたデジャブが生じる心理学的原因の内の三番目の項目に挙げた夢や想像の世界の表象と現実との連結という要因ついては、
それは、悪い意味では、統合失調症などの精神疾患などにおける幻覚や、妄想と現実との混同といった症状にも結びつけられることになるのですが、
例えば、予知夢といったある種の超常的な現象についても、こうした夢や想像の世界の表象と現実の世界との連結としてのデジャブ(既視感)という概念によって捉えられることができると考えられることになります。
デジャブ(既視感)という現象は、それが心理学的な現象としてだけではなく、哲学や神学、あるいは、超心理学といった形而上学的な観点から捉えられた場合には、
予知夢や、多元宇宙論における並行世界の認識、仮想現実、さらには、プラトンのイデア論における想起説やスピノザの永遠の相の認識へも通じるような広がりをもった概念であると捉えられることになるのです。
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次回記事:デジャブ(既視感)とプラトンのイデア論における想起説との関係とは?
前回記事:デジャブとデジャヴュはどちらが正しい?英語とフランス語の発音の違いとフランス語の語源
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