人間における所有の概念の起源とアダムとイブと『2001年宇宙の旅』
前々回の記事で書いたように、
人間における知性の起源は、旧約聖書における記述の中では、
アダムとイブが蛇が勧めるのに従って神から食べることを禁じられていた善悪の知恵の木の実を口にした瞬間に求められることになります。
また、前回の記事で書いたように、こうした旧約聖書における記述と同様に、人類における知性の芽生えを端的に描き出す物語としては、
20世紀を代表するSF映画の大作である『2001年宇宙の旅』の冒頭部分で描かれている猿人が知性を備えた人間へと進化し、そこから文明の急速な発展を経て宇宙へと飛び出すまでの壮大な歴史が一挙に描かれるシーンが挙げられることになります。
そして、人間における所有の概念の起源は、こうした旧約聖書のアダムとイブの話や、『2001年宇宙の旅』が描き出す物語と極めて関係の深いところに求められると考えられることになるのです。
旧約聖書の「創世記」と『2001年宇宙の旅』における人間の知性の芽生え
前々回の記事で書いたように、旧約聖書の「創世記」において、善悪の知恵の木の実を食べて知性を有する存在へと移行した最初の人類であるアダムとイブは、
自分たちがはじめて手にすることとなった知性の力を使って、いちじくの葉をつづり合わせ、自らの体を覆う衣服を作り出すことになります。
それに対して、
前回の記事で書いたように、『2001年宇宙の旅』の物語の中では、モノリス(黒い石板)の神秘の力によって知性を授けられた最初の人類は、
動物の骨から、獲物を仕留め、敵を打ち倒すためのこん棒のような武器を作り出すことになります。
このように、
人類が作り出した最初の道具が、自分の身を守るのに用いられる衣服であったのか、それとも、相手を打ち倒すために使われる武器であったのか?という問題はともかくとして、
こうした人間における道具の製作と所有の起源は、旧約聖書の「創世記」においても、『2001年宇宙の旅』においても、人間における知性の芽生えとセットとなる形で描かれていると考えられることになります。
つまり、
人間の知性と道具との関係は、その原初においては、自らの手で道具を作り出し、それを適切に使用できることこそが知性があることの証明であり、
その反対に、
知性の働きが頭の中における思考の働きを超えて現実の世界へと直接影響を与え、表へと出るためには、道具の作製やその使用といった形をとることが必要であるというように、
人間における知性の芽生えと道具の使用は、互いに切っても切れない表裏一体の関係にあったと考えられることになるのです。
人間における所有の概念の起源とは?道具の所有と失うことへの恐れ
そして、
最初の人間の心の内に知性が芽生え、それが道具の使用という形で現実の世界へと影響を与えるようになった瞬間から、
その人物が手にしている葉や骨は、もはや、ただの一枚のいちじくの葉や一本の動物の骨ではなく、身を覆う衣服や敵を打ち倒す武器へとその存在の意味を変えることになります。
自分が作り出し、手にすることとなった道具のそれぞれは、自らの存在を強め、その存在を支えるものとして、
自分自身の体の延長であるような極めて重要で欠かせない存在へとその姿と意味合いを大きく変えていくことになるのです。
そして、
手や体によく馴染み、自分の所有物となった道具については、それが失われたときには、人は、自らの体の一部が失われるような喪失感と悲しみを感じることになります。
そして、さらに、
そうした自らの所有物がただ失われただけではなく、それが他者の手によって奪われたということが分かったときには、その相手に対して激しい怒りと敵意を抱くようになり、
奪った相手のことを捜し出してどこまでも追求し、場合によっては相手を傷つけたり殺したりしてでも自分の所有物を自らの手に取り戻したいという強い欲求に駆られることになると考えられることになるのです。
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以上のように、
旧約聖書のアダムとイブの話や、『2001年宇宙の旅』の物語の中でも描かれているように、
人間における知性の芽生えと道具の作製と所有の起源には、その原初から、互いに深い関わりがあったと考えられることになります。
そして、
人間は知性を有すると同時に、その働きの現実の世界への表出として道具を手にすることとなり、
そうした自らの身を守り力を増幅させるのに役立つ道具を自分の手から奪われることを恐れるようになった瞬間から、人間の心の内に所有という新たな概念が成立したと考えられることになるのです。
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初回記事:旧約聖書のアダムとイブにおける所有の概念の起源とは?善悪の知恵の木の実がもたらした衣服の製作と所有の起源
前回記事:『2001年宇宙の旅』において描かれる人類の知性と道具の起源と数百万年にも渡る人類の知性と文明の進歩の歴史
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