政治家と詩人と職人における三つの無知のあり方、ソクラテスの無知の知とは何か?⑤

前回までの議論で考えてきたように、

ソクラテスの無知の知と呼ばれる人間の知のあり方の探究においては、政治家詩人職人という三つの職業における知のあり方を吟味していくことによって、その知の探究が進められていくことになります。

そして、

それは、これらの職業に従事する人が陥りがちな三つの無知のあり方を明らかにする探究の旅であったとも考えられることになるのです。

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政治家・詩人・職人における三つの無知のあり方

ソクラテスは、そうした知の吟味と探究の旅において、世間の人々から知者であるとみなされている政治家詩人職人という三つの職業に就く有能な人々のもとを訪れ、彼らの知を吟味していくことによって、

彼らが善美なるもの全体についての知、すなわち普遍的真理については何の知も持っていないという意味で無知であることを明らかにしていくことになるのですが、

そうした政治家詩人職人という三つの職業における善美なるものについての
無知のあり方の議論をまとめると以下のようになります。

・・・

まず、有能な政治家における知のあり方については、

政治家の知は、善悪についての知恵ではなく、それぞれの立場に従って人々を説得するための弁論の技術にその本質があるとされるので、

それは、そもそも善美なるものとは無関係な知であるという点において、彼らの知のあり方は善美なるものについては無知なものであると結論づけられることになります。

次に、美しい詩を書く詩人における知のあり方については、

詩人の能力の本質は、善美なるものについて自らの感性と直感に基づいて語ることにあるので、

それは、知性や論理によって物事を把握するという意味での真の知の要件を満たしていないという点において、善美なるものについてはやはり無知であるとされることになります。

そして、最後に、

優れた職人における知のあり方については、

職人の知は、それぞれの分野における専門的な技術と知識によって構成されているので、

それがたとえ善美なるものに関わる知であったとしても、それはその全体についての知ではなく、あくまでその一部分を占める狭い分野に関わる知であるという点において、やはり善美なるものの全体としての普遍的真理については無知であると結論づけられることになります。

このように、

ソクラテスによる無知の知の探究の旅においては、

政治家詩人、そして職人たちは、上記の三つの無知のあり方において、それぞれが同様に、善美なるもの全体については無知のままであることが明らかにされていくことになるのです。

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知の種類・質・範囲についての三者三様の無知のあり方

それでは、

こうしたそれぞれの職業における無知のあり方が具体的にどのような面において異なっているのか?というと、それは以下のような意味において異なっていると考えられることになります。

政治家の知のあり方は、前述したように、それがそもそも善美なるものとは無関係な知であるという知の種類の問題から善美なるものについては無知であるとされることになりますが、

それに対して、

詩人の知のあり方は、それが知性や論理ではなく感性と直感によって認識する知のあり方であるという知の質の問題から善美なるものについては無知であるとされることになります。

そして、さらに、

職人の知のあり方は、それが善美なるものに関わる部分的な知であるだけで、その全体については何も知らないという知の範囲の問題から善美なるものの全体については無知であると考えられることになるのです。

そして、以上のような意味において、

政治家と詩人と職人という三つの職業における無知のあり方は、
知の種類知の質、そして知の範囲というそれぞれ三者三様の異なる意味における無知であると捉えられることになるのです。

・・・

以上のように、

ソクラテスの無知の知と呼ばれる人間の知のあり方の探究においては、
政治家詩人職人という世間の人々から知者とみなされている三つの既存の職業における知のあり方は、

知の種類知の質知の範囲という三者三様の意味において、善美なるものの全体については無知であるということが明らかにされていくことになります。

そして、

こうしたソクラテスの無知の知の前提にある善美なるものについての全体的な知とは具体的にどのような知のあり方のことを指しているのか?

そして、そうしたソクラテスにおける無知の知の探究は、その後さらにどのような形で進められていくことになるのか?ということについては、

次回以降、さらに詳しく考えていきたいと思います。

・・・

次回記事善美なるものの普遍的真理についての無知と善のイデア、ソクラテスの無知の知とは何か?⑥

前回記事:ソクラテスの無知の知とは何か?④職人の知の吟味とありのままの自分としての哲学探究への道

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