N95マスクとサージカルマスクのウイルス感染症の予防効果に差はあるのか?カナダで行われた実証実験に基づく結論
前回の記事では、日常生活において一般人がマスクを着用することによるインフルエンザウイルスやコロナウイルスなどの呼吸系のウイルス感染症に対する予防効果は、
マスクの単独使用ではなく、マスクの着用と手指衛生の両方を同時に行うことによってはじめて十分な効果をもたらすことになると書いたが、
その論拠として取り上げたサーベイ論文の記述のなかでは、N95マスクとサージカルマスクという二種類のマスクにおける感染症の予防効果を比較した実証実験についての言及もなされている。
カナダで行われたN95マスクとサージカルマスクの感染症の予防効果を比較する実証実験
前回の記事でも取り上げた「日常的なマスク着用による感染予防効果について」※と題されたサーベイ論文のなかでは、
カナダのオンタリオ州で看護師などの医療従事者を対象に行われたN95マスクとサージカルマスクの着用によるインフルエンザの予防効果の差を検証するための実証実験についての記録が示されている。
※出典:Y’s Square:感染対策学術情報:感染対策情報レター2018年:「日常的なマスク着用による感染予防効果について」:https://www.yoshida-pharm.com/2018/letter128/
カナダで行われたこの実証実験では、
8つの病院に勤務する全部で446名の看護師が予めフィットテスト済みの N95 マスクを着用したグループと、通常のサージカルマスクを着用したグループへと分けられたうえで、
その後の勤務におけるインフルエンザの感染率の違いを調べる比較実験が行われている。
そして、実験の結果、
N95 マスクを着用したグループでは22.9%、サージカルマスクを着用したグループでは23.6%の看護師がインフルエンザを発症したことが確認されていて、
N95マスクを着用したグループの方がわずかに感染率は低かったものの、統計的に有意な差ではなかったため、
この実証実験の結論としては、
N95マスクとサージカルマスクという二種類のマスクにおける感染症予防への効果の差はみられなかったと結論づけられているのである。
一般人が日常生活においてN95マスクを着用するメリットはほとんどないと考えられる理由
もっとも、この実証実験において対象となったのは医療従事者とはいっても一般病棟や救急病棟などに勤務する一般の看護師だったので、
感染症予防に対する専門的な訓練を積んでいるウイルス研究者や疫学者たちであれば、アメリカのCDC(疾病対策予防センター)の管轄下の組織であるNIOSHによって認可された微粒子用マスクであるN95マスクをより正しく適切に使用することによって、その真価が発揮させることができるのかもしれない。
しかし、その一方で、
この実証実験においてもN95マスクの着用においては、「フィットテスト」という言葉が用いられているように、
顔とマスクの間に隙間があるサージカルマスクとは違い、N95マスクは顔との隙間からの微粒子の侵入をも最大限に防ぎ止めるために、マスクと顔の皮膚を密接に接触させる設計となっていて、
逆に言えば、N95マスクを着けている本人は通常のサージカルマスクよりも息苦しさを強く感じる傾向があり、日常生活において長時間使用するには適さないマスクであるとも言える。
そして、そういった意味では、
専門的な研究活動や治療活動を行っているウイルス研究者や疫学者ならばともかく、少なくとも、日常生活を送っている一般人にとっては、
通常の医療活動に従事している看護師などの医療従事者でさえ、サージカルマスクの着用と比べて有意な差のある感染症予防効果を得ることができないN95マスクを着用するメリットはほとんどないと結論づけることができると考えられるのである。
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次回記事:N95マスクとサージカルマスクの具体的な特徴の違いとは?ポリプロピレン不織布でできたフィットテストを前提とする微粒子用マスク
前回記事:マスクの着用と手洗いを両方同時に行うことがインフルエンザやコロナウイルスの予防対策に重要である理由
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