日本と韓国の相互入国制限は双方向的な政治的争いではなく一方的な感情的報復と実質的な相互協力になるのではないか?
イラン、イタリア、韓国などを中心に世界各国における新型コロナウイルスの感染拡大が深刻さを増していくなか、日本と韓国の両国が防疫措置として相互に入国制限をかける事態になったことを受けて、
WHOで緊急事態対応を統括する最高責任者にあたるマイク・ライアン氏は2020年3月6日(日本時間では3月7日)に行われた記者会見において、
日韓両国に対して渡航制限をめぐる政治的な争いをやめて、自国内におけるウイルス封じ込めを中心とする感染拡大防止策に集中すべきだとする提言を行った。
しかし、
こうした日本と韓国が行った相互的な入国制限を政治的な争いと捉えて、これをウイルスの感染拡大を防止するための世界各国の相互協力を阻害する無益な争いとして位置づけるWHOの認識は、
新型コロナウイルスの感染拡大が中国以外の世界各国にまで広がり、深刻なパンデミックを引き起こしつつある現状において、本当に、現実に即した正しい認識と言えるのだろうか?
日本と韓国の相互入国制限は結果として両国の防疫に対する相互協力となっているのではないか?
日本と韓国が相互に行った入国制限の掛け合いというものを一つの政治的な争いとして捉えるということは、一言でいえば、
日本の韓国に対する入国制限に対応して行われた韓国の日本に対する入国制限が、先に行われた日本による入国制限に対する対抗措置や政治的な報復として実施されたということを意味することになる。
しかし、そもそも、国家がウイルスや細菌などの病原体が海外から持ち込まれることを防止するために行われる防疫措置というものに対しては、
入国制限といった同様の防疫措置をとることによる対抗措置や政治的な報復といった概念そのものが成立し得ないと考えられる。
日本が韓国に対して入国制限を課したということは、韓国から新型コロナウイルスが国内に持ち込まれることを危惧して行われた防疫措置ということになるが、
この場合、韓国から日本へとウイルスが持ち込まれる危険性については、韓国から日本へと渡航する韓国人旅行者も問題ではあるが、
その逆に、日本から韓国へと渡航する日本人旅行者についてもそれと同じくらい、場合によって、それ以上に大きな問題となる。
例えば、考えられるなかで最悪のケースとなるのは、
観光旅行などで韓国へと渡航してウイルスに感染したのちに帰国した日本人旅行者がそのまま日本国内での日常生活へと戻り、
日本国内のライブ会場やイベント会場、さらには、職場や家庭内などにおいてさらに感染を拡大していってしまうといったケースであると考えられるが、
このようなケースにおいては、
日本の側が韓国からの渡航者を制限するだけではなく、韓国の側からも日本からの渡航者を制限することによって、
そうした韓国へと渡航する日本人旅行者の帰国に伴う感染拡大の危険性をより効率よく未然に防ぐことができると考えられる。
つまり、そういった意味では、
今回、韓国が日本に対して行った日本が韓国に対して行ったものと同等の入国制限という措置は、政治的な争いというよりは、むしろ、
日本の防疫措置をより完全なものにしてくれるという意味において、日本にとっては相互協力といってもいい措置になっていると考えられることになるのである。
双方向的な政治的な争いと一方的な感情的報復との違い
ただし、その他の新聞報道などによると、韓国自身が日本に対して新たに課した入国制限のことを指して「対抗措置」と呼んでいるという報道もあるので、
彼らが自分自身でそう言うのであれば、確かに、そうした日本への対抗や報復という意味合いもあるのかもしれない。
しかし、その場合でも、
日本の側はそうした韓国側の対抗措置や報復措置によって被害を受けるどころか、防疫措置がより完全になるという大きな利益を得ていて、互いに互いのことを攻撃し合う闘争や争いとしての要件を満たしてはいないので、
強いて言うならば、それは双方向的に攻撃し合う政治的な争いではなく、一方的に主張されているだけの感情的報復ということになるだろう。
そして、
こうした日本と韓国が互いに相手国に対して行っている入国制限という相互的な措置は、たとえその措置がどのような意図に基づいて行われたものであったとしても、
これから感染の拡大が広がっていく危険性のある日本からの感染者の流入を未然に防ぐことができるという意味において、やはり、結果としては、韓国にとっても防疫上大きな利益がある措置となっていると考えられる。
そして、そうである以上、
今回の日韓両国による相互的な入国制限という防疫措置は、
政治的な争いでも双方向的な対抗や報復でもなく、実態としては、互恵的な相互協力といってもいい措置になっていると考えられるのである。
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