コロナウイルスの具体的な特徴とHIVウイルスやエボラウイルスなどの他のウイルスとの分子生物学的な関係
前回書いたように、2019年12月に中国の武漢市において新たに発見されてWHOによって2019-nCoVと名付けられることになった新型コロナウイルスは、
コロナウイルスと呼ばれるウイルスの種族のなかでも、SARSコロナウイルスとMERSコロナウイルスなどと同じベータコロナウイルスと呼ばれるグループに分類されるウイルスの種類として位置づけられることになるのですが、
それでは、そもそも、こうしたコロナウイルスと呼ばれるウイルスの種類は、ウイルス学の分野においては、具体的にどのような特徴を持ったウイルスとして位置づけられていると考えられることになるのでしょうか?
コロナウイルスの具体的な特徴とエンベロープウイルスとしての性質
そうすると、まず、
そもそも、こうしたコロナウイルスと呼ばれるウイルスは、直径120~160 ナノメートルの球形の形状をしたウイルスの種族にあたり、
ウイルスの粒子構造の外観が、太陽の周囲を取り巻いて真珠色に輝いているように見える高温のガスの層にあたる光の輪のことを意味する太陽のコロナ、
さらには、そうした太陽のコロナの語源となったラテン語のコロナ(corona)という単語が意味する王冠や花冠のような姿に見えるため、こうした名称が付けられることになったと考えられることになります。
そして、
こうしたコロナウイルスのウイルスの粒子構造は、エンベロープと呼ばれる脂質によって構成される膜構造で覆われていて、
そうした膜構造の内部にあるカプシドと呼ばれるタンパク質の殻の内側に収められているウイルスの遺伝情報を感染した宿主の細胞内に送り込むことによって増殖を進めていくことになります。
そして、
こうしたコロナウイルスを含むエンベロープと呼ばれる脂質膜によってウイルス粒子の表面が覆われているエンベロープウイルスは、
その外膜にあたるエンベロープを破壊されると、それと同時に、ウイルス自体の内部構造も崩壊して感染力を失うことになるため、
石けんや洗剤などに含まれている界面活性剤や、アルコールなどによって、その外膜にあるエンベロープを破壊することによって消毒が可能となると考えられることになるのです。
一本鎖RNA+鎖ウイルスに分類されるコロナウイルスの位置づけとインフルエンザウイルスやHIVウイルスなどの他のウイルスとの関係
そして、
分子生物学においては、ウイルスの種族は、大きく分けて、
ウイルスの遺伝情報がより安定性の高い分子構造を持ったDNA(デオキシリボ核酸)によって保持されているDNAウイルスと、
ウイルスの遺伝情報がより不安定な分子構造を持ったRNA(リボ核酸)によって保持されているRNAウイルスへと分類されることになるのですが、
上記の図において示したように、
コロナウイルスと呼ばれるウイルスの種族は、そうしたDNAウイルスとRNAウイルスという二つのグループのうちの後者にあたるRNAウイルスのなかでも、
特に、一本鎖RNA+鎖ウイルスと呼ばれるウイルスのグループへと分類されることになります。
ちなみに、
こうした一本鎖RNA+鎖ウイルスと呼ばれるウイルスのグループには、コロナウイルスのほかにも、デングウイルスやエボラウイルスなどといった熱病を引き起こすウイルスも含まれているほか、
そうした一本鎖RNAウイルスの中でも逆転写酵素と呼ばれる特別な酵素を持つエイズ(後天性免疫不全症候群)の病原体であるHIVウイルスは、一本鎖RNA逆転写ウイルスと呼ばれるグループに分類されることになるのですが、
このように、
こうしたウイルス学の分野における分子生物学的な分類のあり方においては、
コロナウイルスは、エボラウイルスやHIVウイルスといったより危険性の高いウイルスの種類ともある程度似通った分子構造を持っているとも考えられることになるため、
今回新たに発見されることになった2019-nCoVと呼ばれる新型コロナウイルスに対する試験的な治療薬として、
同じRNAウイルスに分類されるウイルスであり、コロナウイルスと同様に人間に対して主に呼吸系の症状を引き起こすインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス薬のほかに、
コロナウイルスと同じ一本鎖RNAウイルスに分類されるエボラウイルスやHIVウイルスに対する抗ウイルス薬が用いられるケースがあると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:七種類のコロナウイルスの具体的な特徴とウイルス学における分類
前回記事:SARSウイルスと新型コロナウイルスの分子生物学的な関連性とベータコロナウイルスに分類される四つのウイルスの系統
「新型コロナウイルス」のカテゴリーへ
「ウイルス」のカテゴリーへ