SARSウイルスと新型コロナウイルスの分子生物学的な関連性とベータコロナウイルスに分類される四つのウイルスの系統
前回書いたように、コロナウイルスと呼ばれるウイルスの種族は、分子生物学的な知見に基づくウイルスそのものの分類においては、
アルファコロナウイルスとベータコロナウイルスとデルタコロナウイルスとガンマコロナウイルスと呼ばれる全部で四つのグループへと分類されることになるのですが、
それでは、
2019年12月に中国の武漢市を発生地として流行が拡大していくことになり、2020年2月にWHOによって2019-nCoVと名付けられることになった新型コロナウイルスは、
こうしたアルファコロナウイルスやベータコロナウイルスといったウイルスの種族自体の分子生物学的な分類においては、より正確には、具体的にどのようなグループに分類されるウイルスの種類であると考えられることになるのでしょうか?
ベータコロナウイルスに分類される三つの危険性の高いウイルスの種類
そうすると、まず、詳しくは前回の記事で書いたように、
人間に感染して一般的な風邪などの原因となることで知られているHCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1という四種類のヒトコロナウイルスと、
SARSコロナウイルス とMERSコロナウイルス、そして、今回新たに発見されることになった2019-nCoVと呼ばれる新型コロナウイルスとを合わせた人間に感染して呼吸器系の症状を引き起こすことになる全部で七種類のコロナウイルスは、
そのすべてがアルファコロナウイルスとベータコロナウイルスと呼ばれる二つのウイルスのグループのうちのいずれかへと分類されることになります。
そして、このうち、
前者のアルファコロナウイルスには、HCoV-229E(ヒトコロナウイルス229E)とHCoV-NL63(ヒトコロナウイルスNL63)と呼ばれる一般的な風邪の原因となる二種類のヒトコロナウイルスの種類が分類されることになるのに対して、
後者のベータコロナウイルスには、HCoV-OC43(ヒトコロナウイルスOC43)とHCoV-HKU1(ヒトコロナウイルスHKU1)と呼ばれる残りの二種類の一般的な風邪の原因となるヒトコロナウイルスの種類が分類されることになるほか、
SARSコロナウイルスとMERSコロナウイルスに、今回新たに発見された2019-nCoVと呼ばれる新型コロナウイルスを含めた全部で三種類のウイルス、
すなわち、人間対して比較的症状が重い肺炎を引き起こす危険性もある前述した一般的な風邪の原因となる四種類のヒトコロナウイルスと比べて比較的危険性が高いウイルスの種類は、
すべてこうしたベータコロナウイルスと呼ばれるウイルスのグループに分類されることになると考えられることになるのです。
ベータコロナウイルスに分類される四つのウイルスの系統とSARSウイルスと新型コロナウイルスとの分子生物学的な関連性
そして、さらに、
こうしたベータコロナウイルスと呼ばれるコロナウイルスのグループは、ウイルスの粒子の分子生物学的な特徴の違いに応じて、
エンベウイルス亜属(系統A)、サルベコウイルス亜属(系統B)、メルベコウイルス亜属(系統C)、ノベコウイルス亜属(系統D)と呼ばれる四つの系統へと分類されていくことになります。
そして、このうち、
ヘマグルチニン・エステラーゼと呼ばれる短いスパイク状のタンパク質の構造を持つことを特徴とするエンベウイルス亜属(系統A)には、
HCoV-OC43(ヒトコロナウイルスOC43)とHCoV-HKU1(ヒトコロナウイルスHKU1)と呼ばれる二種類の一般的な風邪の原因となるヒトコロナウイルスの種類が分類されるのに対して、
サルベコウイルス亜属(系統B)には、中国の広東省で最初に確認されることになったSARSコロナウイルスが、
メルベコウイルス亜属(系統C)には、サウジアラビアで最初に確認されることになったMERSコロナウイルスがそれぞれ分類されることになります。
そして、それに対して、
今回新たに中国の湖北省の武漢において最初に発見されることになった2019-nCoVと呼ばれる新型コロナウイルスは、
こうしたベータコロナウイルスと呼ばれるコロナウイルスのグループのなかでもサルベコウイルス亜属(系統B)というSARSコロナウイルスと同じウイルスの種族に分類される分子生物学的な特徴を備えたウイルスとして位置づけられることになります。
そして、そういった意味では、
こうした2019-nCoVと呼ばれる新型コロナウイルスは、ウイルス学の分野においては、別名ではSARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)と呼ばれていることからも分かる通り、
二つのウイルスの発生地にあたる中国の広東省と中国の湖北省という地理的な関係性の近さといった観点や、
二つのウイルスが両方とも同じベータコロナウイルスのサルベコウイルス亜属(系統B)に分類されるという分子生物学的な特徴といった観点においても、
分子生物学の分野においてはSARSコロナウイルスと極めて近い特徴を持ったウイルスの種類として位置づけられることになると考えられることになるのです。
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次回記事:コロナウイルスの具体的な特徴とHIVウイルスやエボラウイルスなどの他のウイルスとの分子生物学的な関係
前回記事:コロナウイルスの四つのグループとは?分類される代表的なウイルスの種類と具体的な特徴
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