古代と現代における戦車の違いとは?カデシュの戦いとソンムの戦いという古代と現代の戦争における二つの戦車戦闘
現代の世界では、戦車とは、主に、厚い装甲板によって車体全体が防護されていて威力の大きな火砲を搭載し、キャタピラによって道路のない原野などの地形においても自由に走行できる戦闘車両のことを意味することになりますが、
その一方で、こうした日本語における戦車という言葉は、
古代の世界においては、古代ギリシアやローマ帝国、さらにはエジプトやヒッタイト、シュメールなどといった帝国や王朝が隆盛を極めていた時代の古代の戦争において用いられていた戦闘用の馬車のことを意味することになると考えられることになります。
それでは、
こうした古代の戦車と現代の戦車との間には、具体的にどのような特徴の違いがあると考えられることになるのでしょうか?
古代の戦車の具体的な特徴と最大規模の戦車戦闘があったカデシュの戦い
そうすると、まず、
こうした古代の戦争において用いられていた戦闘用の馬車としての古代の戦車においては、二頭立てまたは四頭立ての馬車に、はじめに馬を操る御者が乗り、
そうした戦車の進路を司る御者の横または後方に一人または二人の武器や盾を持った兵士が乗り込むという分業体制で戦う仕組みとなっていたと考えられることになります。
そして、古代の世界において、
こうした戦闘用の馬車としての戦車が実際の戦争において用いられた最大規模の戦闘としては、
前1274年にエジプトとヒッタイトとの間で行われた公式の軍事記録が残る世界最古の正式な戦争でもあるカデシュの戦いが挙げられることになります。
現在のシリアの西部に位置するカデシュの地で行われたこの戦いにおいては、
エジプトの王ラムセス2世が率いる2万の軍と、ヒッタイトの王ムワタリ2世が率いる3万の軍が激突することになり、
この戦いでは、合わせて5000から6000にもおよぶ戦車が参加して、両軍の主戦力として活躍したと語り伝えられているのです。
現代の戦争における世界初の実用戦車となったイギリスのマーク I 戦車
そして、それに対して、
強力な火砲と装甲板に覆われた車体を持ち、キャタピラによって複雑な地形を自由に走行できる戦闘車両としての現代の戦車が世界ではじめて開発されたのは、
第一次世界大戦中にイギリスでつくられたリトル・ウィリー(Little Willie)と呼ばれる試作戦車であったと考えられることになります。
1915年の7月に開発が始まり9月に完成したイギリスの試作戦車であるリトル・ウィリーの設計計画においては、機関銃の弾が飛び交う歩兵同士の塹壕戦を突破するための戦闘用機械の開発を目的として、
兵士が乗り込む操縦席と戦闘室が10 mmの厚さの装甲鋼板で防護されることになっていて、車体の移動機構には不整地での車両の自由な移動が可能となるキャタピラといった呼び名で有名な無限軌道の機構が導入されることになります。
そして、その後、
こうしたリトル・ウィリーと呼ばれる世界初の試作戦車に、実際に武器が搭載されて、走行能力も大きく改善された改良版にあたるビッグ・ウィリーの開発を経て、
1916年9月15日のソンムの戦いにおいて、イギリス軍がドイツ軍との戦闘において実践投入することになったマーク I 戦車と呼ばれる戦車が、現代の戦争における世界初の実用戦車であったと考えられることになります。
そして、
こうしたマーク I 戦車と呼ばれる世界初の実用戦車は、この戦車が最初に投入されることになったソンムの戦いにおいては、故障車の続出といったトラブルなどもあって大きな戦果をあげることはできなかったのですが、
その翌年にあたる1917年11月20日に行われたカンブレーの戦いにおいて投入された際には、イギリス軍によるドイツ軍の戦線の突破を成し遂げるという大成功を収めることによって、
現代の戦争における主要な兵器としての地位を確立していくことになっていったと考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
こうした古代の戦車と現代の戦車における具体的な特徴の違いについて、一言でまとめると、
古代の戦車は、二頭立てまたは四頭立ての馬車に馬を操る御者と武器や盾を持った兵士が乗り込むという二人または三人乗りの戦闘用の馬車のことを意味していて、
こうした戦闘用の馬車としての古代の戦車が活躍した古代の世界における最大規模の戦闘としては、前1274年のカデシュの戦いと呼ばれるエジプトとヒッタイトとの間で行われた世界最古の正式な戦争が挙げられることになります。
そして、それに対して、
現代の戦車は、強力な火砲と装甲板に覆われた車体を持ち、キャタピラによって複雑な地形をも自由に走行できる戦闘車両のことを意味していて、
こうしたキャタピラ機構を持つ装甲戦闘車両としての現代の戦車が実際の戦争において最初に登場したのは1916年9月15日のソンムの戦いであり、この戦いにおいてイギリス軍が実戦投入したマーク I 戦車が世界初の実用戦車となったと考えられることになるのです。
・・・
次回記事:世界で最初の装甲車の姿とは?15世紀のフス戦争に登場する木製の装甲の重装備の荷車と20世紀のイギリスでの武装自動車の開発
前回記事:パンクラスの由来とは?古代の総合格闘技パンクラチオンとギリシア世界における古代のオリンピックとの関係
「世界史」のカテゴリーへ
「語源・言葉の意味」のカテゴリーへ