戦車競走(アルマトドロミア)とは何か?ギリシア語の語源に基づく具体的な意味とシノリスとテスリッポンという種目の違い
前回の記事で書いたように、古代ギリシアのオリンピアの祭典を中心とする古代のオリンピックにおいて、競技への参加者が裸にならずに装備を身につけて競技を行うことが認められていた種目としては、
武装競走(ホプリトドロモス)と戦車競走(アルマトドロミア)と呼ばれる軍事的な色彩の強い二つの競技種目の名が挙げられることになるのですが、
それでは、
こうした二つの競技種目のうちの後者にあたる戦車競走(アルマトドロミア)と呼ばれる競技では、具体的にどのような方式や手順によって競技が行われていたと考えられることになるのでしょうか?
古代ギリシア語の語源に基づく戦車競走(アルマトドロミア)の意味とは?
そうすると、まず、
戦車競走のことを意味する古代ギリシア語におけるアルマトドロミア(ἁρματοδρομία)という言葉は、
古代ギリシア語において「戦車」のことを意味するアルマ(ἅρμα)と、「競走」や「競走路」のことを意味するドロモス(δρόμος)という二つの言葉が結びつけられることによってできた言葉であり、
その名の通り、戦車に乗った競技者たちが競走路を走っていく速さを競う競技のことを意味する言葉であったと考えられることになります。
ちなみに、
古代ギリシアの時代における戦車とは、現代において用いられているような車体全体が強力な装甲板によって覆われている火砲を搭載した重量級の装甲車両のことを意味するわけではなく、
古代の戦争に用いられた2頭または4頭ほどの馬によって引かれた戦闘用の二輪車の馬車のことを意味することになるのですが、
古代の戦争においては、こうした戦闘用の馬車としての戦車の乗用部分の前方には、戦車を引く馬を操る人物にあたる御者が乗ったうえで、
その後方には、そうした御者を奴隷や部下として従えている戦士や貴族といった主人にあたる人物が槍や弓などの武器を持って乗り込むことによって戦闘を行っていたと考えられることになるのです。
古代のオリンピックにおける戦車競走の具体的な競技内容と二頭立ての馬車によるシノリスと四頭立ての馬車によるテスリッポンの違い
そして、
古代オリンピックの競技としての戦車競走(アルマトドロミア)においては、通常の場合、
シノリス(συνωρὶς)と呼ばれる戦車が2頭の馬によって引かれていくことになる二頭立ての馬車による戦車競走と、
テスリッポン(τέθριππον)と呼ばれる戦車が4頭の馬によって引かれていくことになる四頭立ての馬車による戦車競走という二つの種目へと分けられていく形で競技が行われていたと考えられ、
そうした古代のオリンピックにあたるオリンピアの祭典が行われていたギリシアの古代都市にあたるオリンピアの競技場においては、
競走路の長さが約550メートル、幅も約275メートルにもおよぶかなり大きな敷地がそうした戦車競走の競技のために整備されていたと考えられることになります。
そして、
こうした古代ギリシアにおけるオリンピック競技としての戦車競走においては、二頭立ての馬車によって競走が行われるシノリスと、四頭立ての馬車によって競走が行われるテスリッポンのどちらの場合においても、
戦車に乗った御者たちは、競走路を12周する距離にあたる6km~7kmといったかなり長い距離にわたって競走を繰り広げていくことになっていたと考えられることになるのです。
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