お盆の由来とは?①サンスクリット語とゾロアスター教と仏教の経典の記述に基づく三つの解釈
前回の記事で書いたように、祖先の霊や死者の魂の供養を行うために、墓参りや盆踊りなどといった行事が行われることになるお盆の期間は、
もともと、日本や中国古来の暦の区分のあり方において夏の暑さが終わりを迎えていく時期として位置づけられていた旧暦の7月15日を中心とする時期に位置づけられていたと考えられることになるのですが、
それでは、そもそも、
こうした祖先の霊を祀る一連の行事が執り行われる暦の期間のことを指して、お盆という言葉が用いられていくことになったのには、具体的にどのような由来があると考えられることになるのでしょうか?
サンスクリット語において「逆さ吊りにされた罪人」のことを意味するウランバナという言葉を語源とする解釈
そうすると、まず、
こうしたお盆という言葉は、仏教において祖先の霊や死者の魂の供養を行うための行事のことを意味する盂蘭盆会(うらぼんえ)が省略された形にあたる言葉であり、
こうした仏教における盂蘭盆会という行事の名前は、さらに、こうした盂蘭盆会やお盆やと呼ばれる儀式の直接的な由来となった説話が語られている
『盂蘭盆経』(うらぼんきょう)と呼ばれる西域または中国で成立したと考えられる経典の名前に基づいてその名がつけられたと考えられることになるのですが、
こうした仏教における盂蘭盆会と呼ばれる行事や盂蘭盆経という経典の名前に用いられている盂蘭盆(うらぼん)という言葉は、一般的な解釈においては、
仏教の経典などにおいて広く用いられている古代インドの言語であるサンスクリット語におけるウランバナ(ullambana)の音写にあたる言葉であると考えられていて、
こうしたサンスクリット語におけるウランバナとは、日本語で言うところの「倒懸」(とうけん)、すなわち、罪人などの手足を縛って逆さ吊りにすることを意味する言葉であった考えられることになります。
そして、詳しくは、また改めて次回の記事で書いていくように、
こうしたお盆における儀式の直接的な由来となった説話が語られている『盂蘭盆経』と呼ばれる仏教の経典においては、
釈迦の弟子のうちの一人であった徳の高い僧侶が、餓鬼道へと落されて永遠に満たされることがない飢えと渇きの苦しみに苛まれていた自分の母親をそうした餓鬼道における地獄の苦しみのうちから救い出していくという魂の救済の物語が語られていくことになるのですが、
そういった意味では、
こうしたお盆という言葉の由来をサンスクリット語において「倒懸」を意味するウランバナという言葉のうちに求める場合には、
そうした餓鬼道に代表される地獄のような世界へと落されて、そこで逆さ吊りにされて責め苦を与えられているような罪人の魂をも含む、すべての死者の魂の深い供養と鎮魂を願う救済への祈りが込められた祭典という意味で、
こうした盂蘭盆会やお盆といった言葉が用いられていくようになっていったと考えられることになるのです。
ゾロアスター教において「死者の霊魂」のことを意味するウルヴァンという言葉を語源とする解釈
そして、それに対して、
こうしたお盆という言葉の由来となった盂蘭盆(うらぼん)という言葉については、紀元前5世紀ごろに成立した仏教よりもさらにその起源が古い、
紀元前7世紀~6世紀ごろまでには成立していたと考えられる古代イランの宗教であったゾロアスター教に大本の由来を持つ言葉であるとする解釈もなされていくことになります。
こうしたゾロアスター教の聖典において用いられている古代イランの言語であるアヴェスター語においては、「死者の霊魂」のことを意味する言葉としてウルヴァン(urvan)という言葉が用いられているのですが、
そうしたイランやペルシアと呼ばれる地域で発祥した古代宗教であったゾロアスター教において、死者の霊の鎮魂を願うと同時に農作物の豊作を祝う収穫祭としも位置づけられていたウルヴァンの祭祀が、
イラン系の民族であったソグド人が隊商活動などを通じて中国へと進出していくなかで、中国の中元節における祖霊供養の祭祀と結びつけられていくなかで、
こうした盂蘭盆会やお盆と呼ばれる仏教において祖先の霊や死者の魂の供養を行うための儀式が成立していくことになっていったとも考えられることになります。
また、さらにもう一つの解釈としては、
こうした盂蘭盆会やお盆における死者の鎮魂のための儀式の直接的な由来となった説話が語られている『盂蘭盆経』と呼ばれる仏教の経典においては、
修行僧への食べ物の施しを与えることを通じて、餓鬼道へと落された死者の魂の飢えと渇きを癒すという話が語られていくことになるのですが、
そういった意味では、
そうした修行僧への施しために捧げられた食べ物が乗せられた盆、すなわち、容器としてのお盆の姿が、そのままお盆や盂蘭盆といった言葉の直接的な由来となったとする解釈も挙げられることになると考えられることになるのです。
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そして、以上のように、
こうした祖先の霊や死者の魂の供養を行うための行事のことを意味するお盆という言葉の由来としては、
①サンスクリット語において「逆さ吊りにされた罪人」のことを意味するウランバナ(ullambana)という言葉を語源とする解釈
②ゾロアスター教において「死者の霊魂」のことを意味するウルヴァン(urvan)という言葉を語源とする解釈
③『盂蘭盆経』と呼ばれる仏教の経典において修行僧への施しために捧げられたとされている食べ物が乗せられた盆の姿を直接的な由来とする解釈
という全部で三つの具体的な由来が挙げられることになると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:お盆の由来とは?②『盂蘭盆経』で語られる餓鬼道へと落とされた亡き母の魂の救済の物語と死者の業苦を解く釈迦の教え
前回記事:お盆の期間はいつからいつまでなのか?江戸時代から明治の改暦へと続く日本国内におけるお盆の時期の歴史的な変遷
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