星の名前にアラビア語を語源とする名称が多い理由とは?イスラム世界のアラビア天文学における天文学的知識の継承と発展
前々回の記事で書いたように、おひつじ座やおうし座などといった十二星座に代表されるような星座の名前については、古代ローマ人が用いていた言語であるラテン語を起源とする名称が多いと考えられることになるのですが、
それに対して、
前回の記事書いたように、そうした星座を構成している個々の星々の名前については、ラテン語やギリシア語といった星座の名前の語源となった言語ではなく、それらの言語とはまったく別の系統の言語にあたるアラビア語を起源とする名称が多いと考えられることになります。
それでは、このように、
星の名前にアラビア語を語源とする名称が多いということには、具体的にどのような理由があると考えられることになるのでしょうか?
古代ギリシアから古代ローマへの天文学の継承とローマ帝国滅亡後の千年の期間におよぶヨーロッパ世界における学問の停滞期
そうすると、まず、詳しくは前々回の記事で書いたように、
数学的で論理的な思考、その中でも特に、幾何学的な発想を重視していくことによって、現代の天文学へと通じる天文学の基礎を築いていくことになった古代ギリシアの天文学者たちは、
夜空に輝く星々についても、そうした天球上に位置する大小の星々を互いに線で結びつけられた幾何学的な図形として把握していくことによって、現代の星座の姿へと通じる様々な星座の形を確立していったと考えられ、
さらに、その後、
そうした古代ギリシアの天文学を自らの学問体系の内へと継承していった古代ローマ人たちが用いていた言語であるラテン語を語源として、現代へと通じる星座の名前が名づけられていくことになっていったと考えられることになります。
しかし、その後、
西暦476年に西ローマ帝国が滅亡すると、それと同時に、そうした古代ギリシアからローマへと続いてきた天文学を含む自然科学の分野における学問的知識の発展の流れも徐々に途絶えていってしまうことになり、
その後のヨーロッパ世界においては、
そうしたローマ帝国の滅亡から、その後のおよそ千年もの期間にわたって、天文学を含む自然科学の分野における学問の停滞が続いていくことになってしまったと考えられることになるのです。
アラビア天文学における古代ヨーロッパの天文学的知識の継承とマクロレベルとミクロレベルにおける星の研究
そして、その一方で、
こうした古代ギリシアや古代ローマの時代のヨーロッパにおいて確立されていった天文学的知識は、ローマ帝国の滅亡と共にそのすべてが失われたり忘れ去られたりしていってしまったというわけではなく、
そうした古代ギリシアと古代ローマにおける天文学的知識の大部分は、イスラム教の開祖であるムハンマドの死後、ウマイヤ朝やアッバース朝などといった
エジプトやアラビア半島から現在のシリアやイラク、イランやトルコ、さら遠くはパキスタンやインドの一部からヨーロッパにおけるスペインやポルトガルといった地域までも支配する世界帝国を築いていくことになったイスラム帝国の内へと継承されていくことになっていったと考えられることになります。
そして、
こうしたイスラム帝国において発展していったアラビア天文学においては、天体の運行や個々の星々の正確な位置などについてもさらに詳細な研究が進められていくことになり、
例えば、
10世紀のアッバース朝時代のシリアにおいて活躍した天文学者であったバッターニーは、実に489個もの数におよぶ恒星の正確な位置が記された恒星表をつくることによって、古代ギリシアや古代ローマの時代よりもさらに詳細な天文学的知識が解明されていくことになっていったと考えられることになります。
以上のように、
おひつじ座やおうし座などといった十二星座に代表されるような星座の名前については、古代ギリシアの天文学とそれを引き継いでいくことになった古代ローマの学問体系の内においてすでに確立されていたと考えられるのに対して、
星座を構成している一つ一つの小さな星々の名前については、ローマ帝国の滅亡後に、そうした古代ヨーロッパにおける天文学的知識を継承していくことになったイスラム世界におけるアラビアの天文学においてその確立が進められていくことになっていったと考えられることになります。
そして、そういった意味では、
こうした現代の天文学へと通じる星座の名前とそれぞれの星座を構成している個々の星々の名前の確立においては、
まずは、古代ギリシアにおける天文学とそれを自らの学問体系の内へ組み入れていくことになった古代ローマにおける学問の体系的な研究のあり方に基づいて、
夜空に輝く星々が互いに線で結びつけられた一つのまとまった集団として捉えられた星座というマクロレベルにおいては、ラテン語を語源とする名称が多く用いられていくことになっていったのに対して、
そうした古代ギリシアと古代ローマにおける天文学的知識を継承していくことになったアラビア天文学における天体や星についての詳細な研究のあり方に基づいて、
それぞれの星座を構成している個々の星々というミクロレベルにおいては、アラビア語を語源とする名称が多く用いられていくことになっていったと考えられることになるのです。
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次回記事:天球とは何か?太陽や月や星々などのすべての天体が見かけ上配置される仮想的な球面としての天球の定義とプラネタリウムの関係
前回記事:十二星座を構成する代表的な十二の星の名前の語源となる言葉とは?星の名前におけるラテン語とギリシア語とアラビア語の比率
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