旧約聖書のエゼキエル書において記されているサタンの天上での栄光から地上への転落までの顛末、サタン(悪魔)とは何か?③
前回の記事で書いたように、旧約聖書のなかのヨブ記やゼカリヤ書といった書物においては、神の前に集って自らの意見を自由に述べることができるという天使たちと同列の地位にありながら、
人間に対して様々な苦難や誘惑を与えることによって悪の道へと導いていこうとする人間に対する敵対者や告発者としてのサタンの姿が描かれていると考えられることになるのですが、
イザヤ書とエレミヤ書に並んで旧約聖書における三大預言書の一つとして位置づけられているエゼキエル書においては、
こうしたサタンと呼ばれる存在が、神と共に天界に住む崇高な聖なる存在として造られながら、自らの心の内に芽生えた邪悪な心と罪深い行いのために、地上へと落されて滅ぼされていくことなるという
サタンの天上での栄光から地上への転落までの一連の顛末が語られていくことになると考えられることになります。
エゼキエル書における一人の天使の天上での栄光から地上への転落と滅亡へと至るまでの記録
エゼキエル書においては、前回の記事で書いたヨブ記やゼカリヤ書におけるサタンについての記述とは異なり、そこで語られている天界から追放されて滅ぼされてしまうことになった堕天使とも言える存在に対して、明示的な形で悪魔やサタンという呼び名が示されている箇所はないのですが、
創世記においてイヴを誘惑した蛇が、一般的には、のちに悪魔やサタンといった呼び名が与えられることになる邪悪な心を持った存在と同一視されているのと同様に、
以下で示したエゼキエル書における記述も、そうした悪魔やサタンあるいはルシファーなどといった邪悪な心を持った堕天使について述べられた記述として解釈していくことができると考えられることになります。
・・・
お前は神の園であるエデンにいた。あらゆる宝石がお前を包んでいた。ルビー、トパーズ、アメジスト、ペリドット、オニキス、ジャスパー、サファイア、ガーネット、エメラルド。それらは金で作られた留め金でお前に着けられていた。それらはお前が創造された日に整えられた。
わたしはお前を翼を広げて覆うケルブとして造った。お前は神の聖なる山にいて火の石の間を歩いていた。
お前が創造された日からお前の歩みは無垢であったが、ついに不正がお前の中に見いだされるようになった。
お前の取り引きが盛んになると、お前の中に不法が満ち、罪を犯すようになった。そこで、わたしはお前を神の山から追い出し、翼で覆うケルブであるお前を火の石の間から滅ぼした。
お前の心は美しさのゆえに高慢となり、栄華のゆえに知恵を堕落させた。わたしはお前を地の上に投げ落とし王たちの前で見せ物とした。
お前は悪行を重ね、不正な取り引きを行って自分の聖所を汚した。それゆえ、わたしはお前の中から火を出させお前を焼き尽くさせた。わたしは見ている者すべての前でお前を地上の灰にした。
諸国の民のなかで、お前を知っていた者は皆お前のゆえにぼう然とする。お前は人々に恐怖を引き起こしとこしえに消えうせる。」
(旧約聖書「エゼキエル書」28章13節~19節)
智天使の一人として造られながら邪悪な存在へと転落した堕天使の一人としてのサタンの位置づけ
上記の「エゼキエル書」における旧約聖書の記述においては、
こうしたのちにサタンやルシファーなどと呼ばれる邪悪な存在へと堕落していくことになる存在は、その者が神によって造られた当初は、
ルビーにトパーズにアメジスト、さらには、サファイアにガーネットにエメラルドなどといった、赤、黄、紫、青、緑といった色とりどりの宝石と黄金によって飾られた美しく賢い煌びやかな存在として天上の世界における栄光を手にしていたと考えられることになります。
そして、ここでは、
そうした神の手によって造られた煌びやかな存在は、翼を持ったケルブでもあったと語られているのですが、
ちなみに、
ここで述べられているケルブ(Cherub)とは、一般的には、ケルビム(Cherubim)という複数形の形で語られることが多い智天使(ちてんし)と呼ばれる天使の階級のことを意味する言葉であり、
キリスト教においては、一般的には、こうした智天使(ケルビム)と呼ばれる天使たちは、最上位の天使の階級にあたる熾天使(してんし、セラフィム)に次いで、第二位の階級にある高位の地位にある天使として位置づけられることになると考えられることになります。
そして、こうしたエゼキエル書における記述からは、
そうしたケルブあるいはケルビムとも呼ばれる高位の地位にある天使たちの一人としてかつては神に愛されて栄華を極めながら、
そうした自らの美しさと賢さとを誇って高慢となり、自らの力を試そうとするかのうように人間に対して様々な苦難や誘惑を与えて悪の道へと導いていこうとするという不正と罪を重ねていくことによって神の怒りに触れてしまうことになり、
最終的には、そうした自分自身の邪悪な心と自らが犯した不正と罪に対する罰として、神と天使たちが集う天上の世界から地上へと投げ落とされ、地獄の業火によってその身を焼かれることによって地上の灰となって滅びてしまうことになるという
新約聖書におけるヨハネの黙示録において記されているサタンについての記述を彷彿とさせるようなサタンの最期の姿が描かれていると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:ケルビム(智天使)とは何か?旧約聖書に登場するケルビムの具体的な姿や特徴とヘブライ語におけるケルブとケルビムの意味
前回記事:旧約聖書における人間に対する敵対者と告発者としてのサタンの二つの側面とヨブ記とゼカリヤ書におけるサタンの記述、サタン(悪魔)とは何か?②
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