ソメイヨシノが人為的な繁殖手段でしか子孫を残せない具体的な理由とは?虫媒花ならぬ日本人媒花としてソメイヨシノの存在
日本を代表する桜の種類としては、3月下旬から4月ごろにかけて新葉よりも先に淡紅色から白色の花を咲かせていくことになるソメイヨシノ(染井吉野)と呼ばれる桜の品種の名前が挙げられることになりますが、
こうしたソメイヨシノと呼ばれる桜の品種は、自然交配によっては自らの純粋な子孫を生み出すことができず、挿し木や接ぎ木といった人間の手を借りることによってしか自らの種を存続させていくことができない繁殖面における脆弱性を持った植物の種類としても位置づけられることになります。
そこで、今回の記事では、
こうしたソメイヨシノと呼ばれる桜の品種において見られる人間の手を借りた繁殖のあり方について、一般的な桜の種類において見られる繁殖方法の違いといった観点から詳しく考察していってみたいと思います。
ソメイヨシノが人為的な繁殖手段でしか子孫を残せない具体的な理由とは?
そもそも、
ソメイヨシノ(染井吉野)とは、江戸時代の末期に、エドヒガン(江戸彼岸)とオオシマザクラ(大島桜)と呼ばれる二つの桜の種類の交雑によって人工的に作り出されたと考えられている桜の品種のことを意味する言葉であり、
こうしたソメイヨシノと呼ばれる桜の品種は、若木のうちから花を咲かせていくことができ、緑色の新葉が芽を出していく前に、咲き始めから満開の時期へとかけて淡紅色から白色へと移ろっていく美しい花を咲かせていくことになることから明治維新以降の日本人に広く好まれるようになっていき、
日本全国において大規模な植樹が進められていくことによって、現代では気象庁において桜の開花や満開の時期を判断する標本木としても用いられるようになった日本を代表する桜の種類として位置づけられることになると考えられることになります。
しかし、その一方で、
こうしたソメイヨシノと呼ばれる桜の品種は、そうした人為的な品種改良の試みの際に、同一の品種同士での自家受粉を拒絶する遺伝的な属性が強まってしまったため、冒頭でも述べたように、自然交配によっては自らの純粋な子孫を生み出すことができない植物の種類としても位置づけられていて、
通常の場合、ソメイヨシノの繁殖は、
植物の枝や葉を切り取りそのまま土中に挿して根づかせることによって新たな植物の個体を生育させていく挿し木(さしき)や、
切り取られた植物の枝や芽を台木となる近縁の植物に接合して癒着させていくことによって新たな植物の個体を生育させていく接ぎ木(つぎき)と呼ばれる方法を用いることによって、
人間の手を借りて同じ植物の個体のクローンを量産していくような形で繁殖が行われていると考えられることになるのです。
虫媒花に対する日本人媒花としてソメイヨシノの位置づけ
こうしたソメイヨシノにおける人為的な繁殖方法のあり方に対して、
もともと日本の野山などにおいて広く自生してきたヤマザクラやオオシマザクラといった一般的な桜の種類は、
ミツバチやチョウなどといった昆虫たちが花の蜜を吸う際に、自分の体に花粉が付着していくことで受粉の媒介が行われていく虫媒花として位置づけられることになり、
そうした昆虫を媒介とする受粉形態を通じて果実の内部における種子の結実、すなわち、繁殖が行われていくことになると考えられることになります。
そして、そういった意味では、
こうした日本の野山などにおいて広く自生しているヤマザクラやオオシマザクラなどの野生の桜が、花の蜜を好むミツバチやチョウなどの昆虫によって花粉の媒介が行われる虫媒花として位置づけられることになるのに対して、
挿し木や接ぎ木などといった人為的な手段を通じて繁殖が行われていくことになるソメイヨシノと呼ばれる桜の品種は、
言わば、
美しい花を好む人間の手によって繁殖の媒介が行われていく人媒花あるいは日本人媒花とも呼ぶべき花や植物の種類としても位置づけることができると考えられることになるのです。
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次回記事:ソメイヨシノという名称の具体的な由来とは?桜の名所である吉野山との関係と吉野桜から染井吉野へと呼び名が変わった経緯
前回記事:しだれ桜の具体的な特徴と分類される代表的な桜の種類とは?と糸桜という別名の由来とエドヒガンの変種として位置づけ
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