アウグスティヌスの哲学における三位一体の解釈、人間の心の愛の働きとの類比における三者の関係構造、三位一体とは何か?⑥
前回の記事で書いたように、キリスト教における三位一体の教義のあり方は、端的には、「一つの実体と三つのペルソナ」(una substantia tres personae)というラテン語の定式において示されることになり、
そこでは、真なる実在としては一なる存在である唯一神としての神の内に、父なる神と子なる神と聖霊という三つの存在様式あるいは三つの属性があるという内部構造の存在が明らかにされていると考えられることになるのですが、
こうした一なる神の存在の内にある三つの属性同士の内部関係のあり方は、その後のアウグスティヌスといったラテン教父と呼ばれる神学者たちの手によって、さらにその内部構造のあり方についての詳細な探求が進められていくことになります。
神の似姿としての人間の精神と非物体的な存在としての神の類似性
アウグスティヌス(Augustinus、354年~430年)は、ローマ帝国末期の時代にキリスト教の正統教義の確立に貢献したラテン教父の代表として位置づけられる神学者にして哲学者にもあたる人物であり、
その主著のうちの一つである『三位一体論』においては、イエス・キリストにおける神性と人性との関係、そして、父なる神と子なる神と聖霊の三者の関係といったキリスト教における三位一体の神の存在の捉え方に関する核心的な議論が展開されていくことになります。
アウグスティヌスの『三位一体論』の議論においては、
まずは、キリスト教の聖典である聖書における
「神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された。」
(旧約聖書「創世記」1章27節)
という記述に基づいて、
神の存在についての探求は、その似姿(にすがた)として創られた人間の精神の存在についての探求を進めていくことを通じて進めていくことができるという考え方が示されていくことになります。
そして、
そうした自らの似姿となるように人間を造られた創造主としての神の存在は、人間の精神と完全に同じ存在のあり方をしているわけではないが、それと類似する構造を持つ存在、
すなわち、非物体的な存在としての精神的実体として捉えられていくことになるのです。
人間の心における愛の働きと三位一体の神における三者の関係性の類比
そして、さらに、
そうした精神的実体としての神の存在における父なる神と子なる神と聖霊という三者の間の関係性は、人間の存在における精神の働きの関係性との類比において捉えられていくことになり、
特に、それは、人間の精神における愛という心の働きに基づいて、そうした三者の間の関係性の構造が探求されていくことになります。
人間の心における愛の働きは、
「愛されるもの」と「愛するもの」そして「両者を結ぶ愛」それ自体という三つの存在のあり方として捉えることができると同時に、そのうちのどの一つの要素が欠けていても全体としての愛の働きは成り立たないという三者の一体性においても捉えられることになりますが、
アウグスティヌスの議論においては、そうした人間の心における愛の働きの存在のあり方同様に、
三位一体としての神の存在においても、父なる神と子なる神と聖霊の三者は、個々の属性や存在様式としては互いに区別されつつ、それと同時に本質においては同一の存在として存在していると捉えられていくことになるのです。
・・・
以上のように、
アウグスティヌスの『三位一体論』の議論においては、
人間の存在が神の存在の似姿として創られたという聖書の記述に基づいて、神の存在が人間の精神の存在と同じ非物体的存在としての精神的実体として捉えられたうえで、
人間の心の愛の働きにおける「愛されるもの」と「愛するもの」と「両者を結ぶ愛」という三者の関係に基づいて、三位一体の神の存在のうちにある内部関係の構造が探求されていくことになります。
そして、アウグスティヌスの哲学においては、
こうした人間の精神における愛の働きを中心として考察が進められていくことになる父なる神と子なる神と聖霊の三者の関係構造のあり方は、
最終的に、
「精神」が「父なる神」、「言葉」および「知性」が「子なる神」、そして、「愛」と「意志」が「聖霊」へと類比的に結びつけられていくことによって、
「一つの実体と三つのペルソナ」としての三位一体の神の存在の内部構造のあり方がより詳細で具体的な形において解き明かされていくことになると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:「愛されるもの」としての神の存在の定義とアリストテレス哲学の不動の動者としての神の存在、愛と神とを結ぶ哲学的な議論①
前回記事:一つの実体と三つのペルソナとしての三位一体の神の存在の具体的な解釈のあり方とは?三位一体とは何か?⑤
「神とは何か?」のカテゴリーへ
「アウグスティヌス」のカテゴリーへ