中世ヨーロッパのオカルト思想を代表する四人の人物の名前とは?②錬金術師パラケルススと魔術師アグリッパ
前回書いたように、中世ヨーロッパにおけるオカルト思想を代表する人物としては、
哲学・人文主義・錬金術・魔術という四つの分野のそれぞれを代表するフィチーノとピコ・デラ・ミランドラ、そして、パラケルススとアグリッパといった四人の人物の名を挙げることができると考えられることになるのですが、
今回の記事では、前回取り上げた哲学者と人文主義者であるフィチーノとピコ・デラ・ミランドラの二人に続いて、
残りの二人の中世ヨーロッパにおける代表的なオカルト思想家として位置づけられる錬金術師パラケルススと魔術師アグリッパと呼ばれる人物について取り上げていきたいと思います。
パラケルススの錬金術に基づく世界観と医化学的な治療法の開発
まず、こうした二人の人物のうちの前者であるパラケルスス(Paracelsus)とは、
本名はテオフラストゥス・フォン・ホーエンハイム(Theophrastus von Hohenheim、1493年~1541年)という名の16世紀のドイツの錬金術師として知られる人物であり、
パラケルススという呼び名は、彼が当時のヨーロッパの医学界を支配していた古代ギリシアやローマの時代から続く伝統的な医学を超える新たな医学の道を切り拓いたという自負ゆえに、
古代ローマ時代の名医として知られるケルススの名にちなんで、「ケルスス」(Celsus)を「超える(para)」という意味でこうした呼び名がつけられるようになったと考えられることになります。
そして、彼は、
ヨーロッパ各地を遍歴する旅を続けていくなかで、自らの実践的な医療技術を磨いていくと同時に、
それまでのヨーロッパの医学界における支配的な医学理論であった人間の心身において生じるあらゆる疾病は、血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁と呼ばれる四つの体液のバランスの乱れによって引き起こされるとするヒポクラテスの体液病理学説を批判したうえで、
水銀・塩・硫黄を三原質とする新たな医学理論を打ち立てていくことになります。
こうしたパラケルススの医学理論においては、宇宙そのものを生命体として捉えたうえで、万物の始原は水銀であり、そこから硫黄における燃焼や塩における結晶化を通じて万物が生成されていくとする錬金術に基づく思想と世界観が展開されていくことになるのですが、
それと同時に、こうしたパラケルススの新たな理論に基づく医学治療においては、それまでの医学においては行われてこなかった酸化鉄や水銀、銅や鉛などの金属や化学物質などを医薬品として利用していくという
現代医学にまでつながる医化学的な治療法の開発なども進められていくことになったと考えられることになるのです。
アグリッパにおける魔術研究と「オカルト哲学」についての書物
そして、最後に挙げた人物であるハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ (Heinrich Cornelius Agrippa、1486年~1535年) は、16世紀におけるドイツの魔術師として知られる人物であり、
彼は、占星術師や教師、時には医師や軍人としての仕事などにも従事しながらヨーロッパ各地を遍歴する旅を続けていくなかで、自然の力や人間の魂の謎を解き明かす魔術についての研究を進めていくことになります。
彼の主著である『オカルト哲学について』と題される書物は、その名の通り、そうしたオカルト思想としての魔術や自然哲学の思想をまとめ上げた大著として位置づけられることになるのですが、
アグリッパは、古代ギリシア哲学に起源を持つ新プラトン主義の思想や、カバラと呼ばれるユダヤ教神秘主義の思想なども、そうした自らが「オカルト哲学」と称する魔術的な学問探究の内へと取り入れていくなかで、
「オカルト」、すなわち、「人々の目から隠された秘密の知識」についての深淵なる探究を進めていったと考えられることになるのです。
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