復讐の女神エリーニュスが慈愛の女神エウメニデスとも呼ばれる二つの理由とは?

ギリシア神話の物語のなかでは、たびたび復讐の女神としてエリーニュスと呼ばれる女神たちの名が語られることがあり、

神話の中に出てくる後ろ暗い過去を持つ登場人物たちは、こうした復讐の女神エリーニュスから厳しく追い立てられることによって自らの心を苛まれて自滅への道を進んでいくことになるのですが、

その一方で、こうした復讐の女神エリーニュスは、しばしば慈愛の女神のことを意味するエウメニデスという名によっても呼び表されることがあります。

それでは、こうしたギリシア神話における復讐の女神エリーニュスは、具体的にどのような特徴を持った女神たちであると考えられ、

本来は復讐の女神であるはずのエリーニュスが慈愛の女神としても位置づけられるようななったことには、いったいどのような由来があると考えられることになるのでしょうか?

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ギリシア神話における巨神族の系譜に属する古の神々としてのエリーニュスの位置づけ

エリーニュス(Erinysとは、もともと、ギリシア神話のなかでも、ゼウスやアポロンやアテナといったオリュンポスの神々よりもさらに古い起源を持つティターン(タイタン)と呼ばれる巨神族の系譜に位置づけられる古の神々に属する復讐の女神たちのことを指す名であり、

ギリシア神話のなかでは、親殺しや偽証といった自然の法を犯した罪を厳しく追及して、そうした罪を犯した罪人を地の果てまで追いつめて苦しめる復讐神として位置づけられることになります。

エリーニュスは、必ずしも固有の名を持った特定の女神たちのことを意味する言葉として用いられているわけではなく、この言葉は、そうした復讐神としての役割を果たす古の女神たちのことを指す総称として用いられることもあるのですが、

こうしたエリーニュスという名が個別の女神のことを指す名称として用いられる場合には、それは通常の場合、アレークトーティーシポネーメガイラ姉妹の復讐の女神のことを指す名称として用いられることになり、

その姿は、頭には蛇の冠をいただき、背中に生えたコウモリの羽をはばたかせて、手に持った松明をかかげて罪人を追いつめ、捕まえた罪人を覗き込むその目からは血が滴り落ちるという恐ろしい姿をした女神として描かれていくことになるのです。

 

復讐の女神エリーニュスが慈愛の女神エウメニデスとも呼ばれる二つの理由

それでは、こうした恐ろしい姿をした古の復讐の女神として位置づけられているエリーニュスが慈愛の女神のことを意味するエウメニデスという名でも呼ばれることになるのはなぜなのか?ということについてですが、

一つには、そもそもエウメニデス(Eumenidesとは、もともと古代ギリシア語において「善き心を持つ者」といった意味を表す言葉であり、

自らが犯した罪から逃れようとしている罪人を追いつめてその罪に対する相応の罰を与えるという意味での復讐という行為は、それは、結局、善き心を持つ者が遂行する正義の行いであるとも考えられるので、

そうした復讐という正義を遂行する女神であるエリーニュスに対するある種の美称や尊称のようなものとしてこうしたエウメニデスという名が用いられることになったと考えられることになります。

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また、もう一つのより具体的な由来としては、

古代ギリシアの三大悲劇詩人の一人であるアイスキュロスによって書かれた『エウメニデス』(慈愛の女神たち)という名の作品が挙げられることになり、

その物語のなかでは、姉であるエレクトラの手引きによって、父アガメムノンを殺した敵(かたき)であると同時に、自らの母でもあるクリュタイムネストラを殺害して母殺しの罪を背負うことになったオレステスが、

その罪を追求する復讐の女神エリーニュスによって自らの心を苛まれて気狂いとなり、ギリシアの各地をさまよう放浪の旅へと追い立てられていくことになるのですが、

この物語の主人公であるオレステスは、アテナイの地へと行き着いた末に、知恵の女神アテナの助けを借りることによって、この地にあったアレオパゴス(アレスの丘)において神々の審判を受ける機会を得ることになります。

その場の神々の審判においては、、父親の敵討ちであることからその罪は相殺されて許されるべきであるとする意見と、どのような場合においても自然の理に逆らう親殺しの罪は許されないとする意見が互いに同数となり、

最終的に、この法廷の主催者であった女神アテナ自身の一票によって、オレステスの罪は許されて無罪放免となって、彼はその後、自らの故郷であるミュケナイの王として君臨することになるのですが、

その際、復讐の女神であるエリーニュスたちもこの評決を受け入れて、オレステスの罪を追求することをやめて彼の罪を許すことに同意することになったので、

その瞬間、本来、罪人を地の果てまで追いつめて復讐を果たすことだけを目的とする氷の心を持った女神であるはずのエリーニュスたちが、慈しみと憐れみの心を見せることによって、

慈愛の女神エウメニデスへとその姿を変えることになったと考えられることになるのです。

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次回記事:アレークトーとティーシポネーとメガイラの三人の復讐の女神たちが司る罪と罰の具体的な内容と『アエネーイス』における記述

前回記事:エレクトラコンプレックスの由来とは?ギリシア神話における王女エレクトラと弟オレステスによる母殺しの復讐の物語

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