オイディプスの死とテーバイの王座を巡る息子二人の骨肉の争い、ギリシア神話のオイディプス王の悲劇と彼と家族のその後の物語④
前回書いたように、先代の王であるライオス王の死と、自らの出生の秘密を巡るすべての真相が明らかとなった後、
オイディプスは、真実を見抜くことができなかった自らの両目を呪って盲(めしい)となったうえでテーバイの国から追放されることとなり、
この時、オイディプスの二人の息子は父を見捨ててテーバイの都にとどまり続けたのに対して、彼の娘であったアンティゴネは、盲目となった父のことを支えていく道を選び、彼と共にテーバイの国を去っていくことになるのですが、
こうしたオイディプス王の悲劇の物語は、さらに、こうしたオイディプスの二人の息子の間で繰り広げられていく骨肉の争いと、彼の娘であったアンティゴーネの悲劇のうちへと引き継がれていくことになるのです。
コロノスの森におけるオイディプスの死とアテナイの王テーセウス
テーバイの国から追放されたオイディプスは、最愛の娘アンティゴネに伴われて諸国を放浪していくことになり、
その後、乞食のような姿に身をやつしながらも、その歩みを東の異国の地へと進めていくことになるのですが、
そうした放浪の旅の末、オイディプスの一行は、アテナイ(アテネ)の近郊に位置していたコロノスの森へとたどり着き、この静かな森の中でついにその歩みをとめることになります。
すると、この神聖な森の中に現れた招かれざる侵入者の存在に気づいた森の老人たちは、オイディプスに対して、この森が復讐と慈愛の女神たちを祀るエウメニデスの神域にあたる場所であり、彼のような穢れた罪を背負う者にはふさわしくない場所であることを告げると、
オイディプスの一行に、すぐにこの神聖な森から立ち去るように迫っていくことになるのですが、
その時、こうした一連の出来事を見ていたアテナイの王テーセウスが前へと進み出て、オイディプスのことを追い払おうとする人々を押しとどめることなります。
テーセウスは、クレタ島の人々を苦しめていた牛頭人身の怪物であるミノタウロスを退治したほどの怪力と叡智とを兼ね備えたアテナイの伝説的な王であり、
オイディプスが自らの意志では抗うことができない運命に翻弄されて深い罪を背負わされているものの、真実においては善き心を持った人であるとということを見抜いたテーセウスは、
彼のことを森を司る神々に罪の許しと救いとを求める哀訴者として受け入れたうえで、この地を彼らの永住の地とすることを認めて、オイディプスの一行に対して手厚い庇護を与えることになるのです。
こうして、オイディプスの一行は、故郷であるテーバイからは遠く離れた異国のアテナイの地において、ついに安息の地を得ることとなり、
オイディプスは、この地で、最愛の娘であったアンティゴネに最期まで看取られながら穏やかな死を迎えることになるのですが、
こうしたアテナイの王が示した慈悲の心に深い感謝の念を抱きながら安息の内に死を迎えたオイディプスは、その死後も、その霊はアテナイの地にとどまり続けることとなり、この地を守る守護神として、その後のアテナイの平和と繁栄を導いていくことになったとも伝えられています。
テーバイの王座を巡る兄ポリュネイケスと弟エテオクレスの骨肉の争い
そして、このように、遠い異国の地においてオイディプスがその死を迎えていた頃、テーバイの国においては、オイディプスの二人の息子であったポリュネイケスとエテオクレスの間で王位継承を巡る争いが起こっていて、
両者は、一度は、互いの間で交わされた協定によって、二人が一年おきに交代でテーバイの国を治めることに同意したのですが、
兄ポリュネイケスが国を一年収めたのち、その王権を弟エテオクレスへと引き渡すると、エテオクレスは約束をたがえて、その後一年以上の月日が過ぎても王位をポリュネイケスへと戻そうとせず、ポリュネイケスはそのままテーバイの国から追放されてしまうことになります。
そして、自らの国を追われたポリュネイケスは、その後、隣国のアルゴスへと逃れ、この地でアルゴスの王アドラストスの庇護を受けて、やがて、王の娘アルゲイアと婚姻を結ぶこととなるのですが、
その後、アルゴス王の助力を得ることによって十分な軍備を整えたポリュネイケスは、かつて血を分けた実の弟に裏切られた積年の恨みを晴らそうと、自らアルゴスの大軍を率いて、エテオクレスが守るテーバイの城へと攻め寄せてくることとなり、
ついに、こうして、オイディプスの二人の息子であった兄ポリュネイケスと弟エテオクレスの兄弟の間でテーバイの城の攻略を巡る攻城戦の戦端が開かれ、両者の間でテーバイの王位を巡る骨肉の争いが繰り広げられていくことになるのです。
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次回記事:アンティゴネの悲劇ともう一人の娘イスメネのその後の消息、ギリシア神話のオイディプス王の悲劇と彼と家族のその後の物語⑤
前回記事:オイディプスの追放と彼が犯した三重の罪、ギリシア神話のオイディプス王の悲劇と彼と家族のその後の物語③
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