オイディプスの追放と彼が犯した三重の罪、ギリシア神話のオイディプス王の悲劇と彼と家族のその後の物語③
前回書いたように、テーバイの国を苦しめていたスピンクスを打ち倒すことによって、新たな王としてテーバイの人々に迎え入れられたオイディプスは、そうした束の間の栄誉を手にすることによって、
自らの知らぬ間に、自分の父であるライオス王を殺すという第一の神託に示されたいた予言の言葉に続いて、自分の母であるイオカステを妻とするという第二の神託に示されたいた予言の言葉まで成就させてしまうことになるのですが、
こうした幾重にもわたる不義と罪との積み重ねによって築かれたオイディプスの王国の繁栄は長くは続かず、やがて、覆い隠されてきた罪は自らの手によって暴かれ、その罪に対する罰がもたらす破滅と贖いの時が訪れることになるのです。
第三の神託が解き明かす真相とオイディプスが犯した三重の罪
オイディプス王とその妻イオカステによる統治のもと、しばらくの間は、テーバイの国では平和と繁栄の時代が続いていくことになり、
そうした束の間の幸せを享受するなか、二人の間には、ポリュネイケスとエテオクレスという名の二人の息子と、アンティゴネとイスメネという名の二人の娘が生まれることになります。
しかし、やがてテーバイの国では疫病や飢饉やといった不幸な災いが長く続いていくことになり、このことを不審に思ったイオカステの弟クレオンがデルポイの神殿に神託を求めに行くと、
テーバイの国にこうした不幸な災いが続くのは、先代の王であったライオス王の殺害した者の罪の穢れがこの国を覆っているからであるという神託が告げられることになります。
そして、この神託の言葉を聞いたオイディプス王が自らライオス王の死の真相について調べていくと、
その殺害の詳しい状況から、実は、自ら探し求めていた先代の王の殺害者がかつての自分自身であるということに気づくことになり、こうしたライオス王の殺害者が自分であるという事実と、
先代の王であるライオス王が受けていた第一の神託にある「汝は自分の息子によって殺される」という予言の言葉、
そして、オイディプス(腫れた足)という自らの名前の由来ともなっているライオス王が自分の息子の死を望んでその足をブローチの留め針で突き刺した時にできた傷痕を示す自分の足に刻まれた烙印という三つの証から、
ついに、オイディプスは、自分が過去において自らの父を殺し、現在において自らの母を妻として、さらには、その間に四人もの子を設けることによって、未来においてもその呪われた血筋を引き継いでいくことになるという三重の大罪を犯していることに気づくことになるのです。
オイディプスの追放と四人の子供たちが選ぶそれぞれの道
こうして事の真相が明らかになると、その罪の重さに絶望した王妃イオカステは、自分の首に縄を結んでそのまま首を吊って死んでしまい、
オイディプスは、自分が犯した罪の重さと、いままで真相を見抜くことができなかった己が両目を呪って、自ら自分の両の眼(まなこ)をえぐり抜いて盲(めしい)となると、そのままテーバイの国から追放されて、東方へとあてもなくさまよい出ていくことになるのですが、
このとき、彼の息子であったポリュネイケスとエテオクレスの二人は追放されるオイディプスのことを助けようともせずに、そのまま父を見捨ててテーバイの国にとどまり続けたのに対して、
彼の娘であったアンティゴネだけが父のことを深く気にかけて、盲となったオイディプスのことを支えていく道を選ぶことになり、その際、姉のことを深く慕っていたイスメネも父と姉の後につき従ってテーバイの国を去っていくことになるのです。
こうして、
自分の罪に対して自らが下した罰によって盲となり、もはや一人では自由に歩き回ることもできなくなったオイディプスは、
かつて自分が「一つの声を持ちながら、朝には四足、昼には二足、夕(ゆうべ)には三足となって歩くものは何か?」というスピンクスの謎かけに対して、
「それは人間だ。人間は赤児の時には両手と両膝で這って歩くが、成人するとまっすぐに立って歩く。そして、老年になるとさらにもう一本の杖の助けを借りて歩くことになるであろうから。」と答えたその時の言葉の通りに、
いまや、自分の娘であるアンティゴネだけを自らの心を支える一本の杖とすることによって、辛うじてその身をこの世の内につなぎとめておきながら、
彼女と共に呪われた運命をその身に背負って生き続ける道を選び、テーバイの都を後にして、さらなる放浪の旅へと赴いていくことになるのです。
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次回記事:オイディプスの死とテーバイの王座を巡る息子二人の骨肉の争い、ギリシア神話のオイディプス王の悲劇と彼と家族のその後の物語④
前回記事:スピンクスの謎を解くオイディプスと第二の神託の成就、ギリシア神話のオイディプス王の悲劇と彼と家族のその後の物語②
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