強迫神経症と「抑圧」そして「情動分離」との関係とは?無意識の領域における思考と感情および行動と感情の分裂、防衛機制とは何か?⑱
前回書いたように、人間の心における様々な防衛機制のあり方のうちの「孤立」から「知性化」へと至る心理過程においては、
強い心理的ストレスから自分自身の心を守るために、いったん意識の領域から除外されて分離されてしまった感情や情動は、その後、感情の観念化の過程を経ることによって、再び自らの心の意識の領域の内へと再統合されていくことになるのに対して、
「分離」や「情動分離」と呼ばれる自我の防衛機制のあり方においては、いったん自らの心の内で分離された感情や情動は、そのまま無意識の領域へと抑圧されたままの状態にとどまり続けることになると考えられることになります。
そして、前回の記事の中でも少し触れたように、
こうした「分離」あるいは「情動分離」と呼ばれる防衛機制の働きによって生じる自らの心の内で分離されて無意識の領域の内に抑圧され続けている感情や情動の存在は、
強迫神経症に代表されるような様々な精神疾患の症状などとも深い関わりがあると考えられることになるのです。
心理学における強迫神経症および強迫性障害の定義とその症状の具体例
まず、
強迫神経症、あるいは、強迫性障害(obsessive-compulsive disorder)と呼ばれる神経症や精神障害は、一般的には、
意識においては、それが不合理な観念や行為であるということが分かっていながら、自らの心の内に存在しているものの自分の意志では払いのけることができない強迫観念に捕らわれて、
そうした不合理な行為や思考を自らの意志に反して繰り返し続けてしまう精神症状や精神障害のことを指す言葉として定義することができると考えられることになります。
そして、具体的には、
すでに十分に汚れは落ちていて衛生上は何の問題もないということが医学的な知識や認識の面においてははっきりと分かっていながら、自分の手や体が汚れているという観念をどうしても払しょくできずに、何度も手を洗い続けたることをやめることができないといった洗浄恐怖や潔癖症と呼ばれる症状や、
確かに家のドアの鍵を閉めたという記憶があるにも関わらず、外出後にどうしても何度も家に戻ってきては、鍵がきちんとしまっていることを執拗に確認するという行為をやめることができないといった確認行為と呼ばれる症状などが、
こうした強迫神経症や強迫性障害に分類される症状の具体例として挙げられることになると考えられることになるのです。
強迫神経症の根本に存在する人間の心の無意識の領域における思考と感情および行動と感情の分裂構造とは?
そして、上述したように、
こうした強迫神経症や強迫性障害に分類されるような症状は、自らの心の意識の領域における自分自身の意志によっては制御できない心の働きによって引き起こされていると考えられることになるので、
それらの症状は、ひとまずは、人間の心の無意識の領域の内に存在する何らの抑圧されている感情や衝動によって引き起こされている症状として捉えることができると考えられることになるのですが、
こうした強迫神経症や強迫性障害の症状が見られる患者における心理状態の特徴としては
妄想性障害などの他の精神疾患において見られるように、そうした無意識の領域の内に抑圧された不合理な観念によって意識全体が支配されているような状態にあるわけではないといった点も挙げることができると考えられることになります。
むしろ、
強迫性障害においては、患者自身の心理状態や認識においても、自分がいままさに行おうとして行為が不合理な行動であるということが頭の中では十分に分かっていながら、
そうした頭の中の合理的な判断に自分自身の心の中の感情や体の方がついて行くことができずに、無意識の領域の内にある抑圧された感情や情動に突き動かされて不合理な行為を繰り返してしまうという症状が進行していくことになると考えられることになるので、
そういった意味では、
こうした強迫神経症や強迫性障害の症状の背景には、そうした無意識の領域の内における思考と感情の分離、あるいは、行動と感情の分裂といった心理学的な構造が存在していると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
強迫神経症や強迫性障害に分類される精神的症状は、単に、自分の心にとって不都合な感情や衝動が無意識の領域の内へと押し込められていく「抑圧」と呼ばれる心の働きによって引き起こされている症状として捉えられるだけではなく、
それらの症状は、人間の心が直接的に受け入れることができない過酷な状況に置かれたときに、そうした過酷な状況の認識における思考と感情、あるいは、その状況において自らが行わなければならない行動と感情とを切り離すことによって、そうした状況や行為がもたらす心理的なストレスから逃れようとする心の働きである
「分離」や「情動分離」と呼ばれる自我の防衛機制の働きが大本の原因となって引き起こされている症状として捉えることもできると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:心理学における「解離」の定義と日常的な具体例そして二重人格や多重人格といった病的な状態への進展のあり方とは?防衛機制とは何か?⑲
前回記事:「情動分離」と「知性化」の過程における無意識の領域の内への感情の永続的な抑圧と再統合のあり方の違い、防衛機制とは何か?⑰
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