自我リビドーと対象リビドーの違いとは?②エネルギー保存の法則の心的エネルギーへの適用と両者の間に成立する対称的な相関関係
前回書いたように、フロイトの心理学理論などにおいて登場するリビドー(libido)と呼ばれる根源的な心的エネルギーのあり方は、そのエネルギーが向かう方向性の違いに応じて、
自我リビドーや対象リビドーと呼ばれるリビドーのあり方へとさらに細かく分類されていくことになると考えられることになります。
そして、人間における健全な心の状態は、こうした自我リビドーと対象リビドーの両者の間のバランスが適切な形で保たれることによってもたらされることになると考えられることになるのですが、
より厳密な意味においては、
フロイトの心理学においては、こうした自我リビドーや対象リビドーと呼ばれる心的エネルギーのあり方は、
位置エネルギーや運動エネルギーといった物理的なエネルギーや、そうした物理学の基本原理となるエネルギー保存の法則などといった原理とも深い関係のある概念として捉えられていくことになると考えられることになります。
リビドー概念の量的な把握とエネルギー保存の法則の心的なエネルギーに対する適用
以前に「フロイトの心理学におけるリビドーの定義」の記事で詳しく考察したように、
フロイトの心理学においては、リビドー(libido)と呼ばれる心理学上の概念は、人間のあらゆる精神活動や生命活動の根本に存在する種族保存の本能に根差した性的欲動、すなわち、ある種の性的なエネルギーとして捉えられていくことになるのですが、
そうした人間の心の根底に存在する性的欲動としての根源的な心的エネルギーは、フロイトの心理学においては、物理学的なエネルギーに類するような量的な概念としても捉えられていくことになります。
一般的に、位置エネルギーや運動エネルギーといった力学的エネルギーに代表される物理的なエネルギーにおいては、
エネルギーがある形態から他の形態へと変換される過程の前後において、エネルギーの総量は常に一定不変であるとされるエネルギー保存の法則と呼ばれる原理が働くことになりますが、
フロイトの心理学においては、人間の心の内部における心的なエネルギーについても、それは物理的なエネルギーのようなはっきりとした実体はないものであるとはいえ、どこからともなく無尽蔵に引き出せるようなエネルギーのあり方をしているわけではなく、
それは、こうした物理的なエネルギーにおいてエネルギー保存の法則が働くのと同様に、それぞれの個人の心の内部における全体量が一定の水準に保たれるようなエネルギーのあり方をしていると捉えられることになるのです。
振り子運動における位置エネルギーと運動エネルギーの関係と人間の心における自我リビドーと対象リビドーとの対応関係
そして、物理学におけるエネルギー保存の法則においては、
例えば、
左上から中央下そして右上へと弧を描くように運動している振り子は、
出発点である左上の地点から放たれる直前の静止状態においては、位置エネルギーは最大の状態であるのに対して、運動エネルギーは最小の状態にあると考えられ、
その振り子は、左上の出発地点から放たれたのち、徐々に速度を上げながら右下の方向へと向けて下降していくことになり、
ちょうど中央下の最も位置が低くなる地点において振り子の速度は最大の状態、すなわち、位置エネルギーが最小で運動エネルギーが最大の状態へと至ることになります。
そして、そこから再び振り子は右上の方向へと上昇しながら速度を緩めていくことなり、摩擦や空気抵抗などの影響を除外した場合、
ちょうど左上の出発地点と対称的な位置関係にある右上の地点においてついに静止することになり、その時点における位置エネルギーと運動エネルギーの振り分けは、出発時点と同様に位置エネルギーが最大で運動エネルギーが最小の状態へと至ることになると考えられることになります。
つまり、
こうした振り子の運動などにおいて働く位置エネルギーと運動エネルギーの関係においては、
エネルギー保存の法則に基づいて、振り子における位置エネルギーが大きくなればなるほどそれに伴って運動エネルギーは小さくなり、
それとは対称的に、振り子における運動エネルギーが大きくなればなるほど位置エネルギーは小さくなるという関係にあると考えられることになるのですが、
フロイトは、こうした物理学におけるエネルギー保存の法則を人間の心の心的なエネルギーとしてのリビドーのあり方にも適用することによって、
物理学における位置エネルギーと運動エネルギーの関係と同様に、自我リビドーと対象リビドーと呼ばれる心的なエネルギーの種類の間にも、
自我リビドーが増大すればそれに伴って対象リビドーが減少し、その反対に、対象リビドーが増大すればそれに伴って自我リビドーが減少するという関係が存在するということを明らかにするに至ったと考えられることになるのです。
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以上のように、
フロイトの心理学理論においては、リビドーと呼ばれる人間の心の根底に存在する性的欲動としての根源的な心的エネルギーのあり方が、物理学的なエネルギーに類する量的な概念としても捉えられたうえで、
そうした心理学上の概念であるリビドーに対して、本来は物理学の基本原理にあたるエネルギー保存の法則が適用されることによって、
自我リビドーと対象リビドーと呼ばれる心的なエネルギーの種類同士の間に、一方のエネルギーが増大すればその分他方のエネルギーが減少という相関関係が成立するということが明らかにされていくことになります。
そして、詳しくは、また次回改めて考察していくように、
こうした自我リビドーと対象リビドーとの間に成立する対称的な相関関係のあり方からは、さらに、内向的性格と外交的性格といった個人における人格形成がなされていく原理が導き出されていくことになると考えられることになるのです。
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次回記事:自我リビドーと対象リビドーの違いとは?③内向的性格と外交的性格の分類とリビドーの方向性との関係
前回記事:自我リビドーと対象リビドーの違いとは?①人間の心の発達段階における自己愛から対象愛への転換と両者の適切なバランスがもたらす健全な心の状態
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