自我リビドーと対象リビドーの違いとは?①人間の心の発達段階における自己愛から対象愛への転換と両者の適切なバランスがもたらす健全な心の状態
「フロイトの心理学におけるリビドーの定義」の記事で書いたように、精神分析学と呼ばれるフロイトの心理学理論においては、
人間の心の奥底に存在するあらゆる精神活動や生命活動の原動力となる根源的な心的エネルギーのあり方が、本能に基づく性的欲動のことを意味するリビドー(libido)と呼ばれる心理学上の概念として捉えられていくことになります。
そして、
こうしたリビドーと呼ばれる根源的な心的エネルギーのあり方は、そのエネルギーが向かう方向性の違いに応じて、
自我リビドーや対象リビドーと呼ばれる種類へと分類されていくことになると考えられることになるのですが、
こうした自我リビドーと対象リビドーと呼ばれるリビドーのあり方は、幼少期から青年期へと向かう人間の心の発達段階の各段階において、
段階を追っていく形で徐々に形成されていく心的エネルギーのあり方として捉えられることになると考えられることになります。
人間の心の発達段階における自我リビドーと対象リビドーの形成
フロイトの心理学では、人間の心の発達段階において、まずはじめに発達するのは自我リビドーと呼ばれるリビドーのあり方であるとされていて
それは、ナルシシズム(narcissism)、すなわち、自己愛へと向かう心的エネルギーのあり方として位置づけられることになります。
生まれて間もない赤ん坊にとっては、まだ自己と他者との間の境界についての認識が明確な形では定まっておらず、そうしたなか、
周りの人々が自分のことを適切な形で世話してくれることによって受動的に得られる自らの内面的な欲求の充足へと関心が向かっていくことになるので、
そうした自己の内面へと向かう自我リビドーがまずは発達していくことになると考えられることになるのです。
そして、それと同時に、
こうしたリビドーと呼ばれる心的エネルギーは、次第に、自分の心の内部だけにはとどまらずに、両親などの自分のことを愛情を持って世話してくれ、自らの欲求を満たしてくれている周りの人々の方向へも拡張されていく形で注がれていくようになっていき、
そうしたことを通じて、自らの外なる存在へと向かう対象愛へと通じる心的エネルギーのあり方である対象リビドーが発達していく土台が築かれていくことになると考えられることになります。
つまり、
こうした乳児期から幼児期における人間の心の発達段階においては、まずは、自らの心の内面的な欲求の充足へと関心が向かう自我リビドーが発達していくことになり、
その後、そうした自我リビドーの十分な発達を経たうえで、思春期や青年期における自らの外なる存在である他者への愛へと通じる対象リビドーの発達が進んでくことになると考えられることになるのです。
自我リビドーと対象リビドーおよび自己愛と対象愛の適切なバランスによってもたらされる個々の人間にとっての健全な心の状態のあり方
以上のように、
人間の心の発達段階においては、
まずは、乳児期から幼児期にかけて自らの内なる欲求の充足へと関心が向かう自己愛へと向かう心的エネルギーのあり方である自我リビドーが発達していったうえで、
その後、思春期や青年期において自らの外なる存在へと関心が強く向かっていくことによって対象愛へと向かう心的エネルギーのあり方である対象リビドーが発達していくことになると考えられることになります。
そして、一見すると、
こうした他者を愛する対象愛へと通じる対象リビドーに対して、自分自身を愛するナルシシズムへと通じる自我リビドーと呼ばれる心的エネルギーの方向性のあり方は、
幼少期において発達する未成熟な段階にあるリビドーのあり方のことを意味する概念であり、それは、他者のことを顧みずに、自分だけを愛する自分勝手でわがままな心のあり方のことを意味する表現であるようにも思えてしまうことになるのですが、
こうした自我リビドーと対象リビドーと呼ばれる心的エネルギーの方向性のあり方は、必ずしもそうした一面的な優劣関係において捉えられるものではなく、
自我リビドーは、幼少期においてではなく、青年期やそれ以降の全生涯にわたって人間の心の健全性を保ち、自我の内面的な発展を得るために非常に重要な役割を果たしている心的エネルギーのあり方として位置づけられることになると考えられることになります。
人間が劣等感や無力感に苛まれることなく、自分には生きる価値があると信じ、堂々と自信を持って自らの人生を歩んでいくためには、自尊心や自己肯定感と呼ばれる心の感覚が不可欠であると考えられることになりますが、
自我リビドーは、そうした自尊心や自己肯定感の源泉となる同時に、自らの関心を自己の内面へと向けることによって自己の内省と人格の内面的な発展を促していく役割をも担う非常に重要な心的エネルギーであると考えられ、
人間の心は、その根底に存在する心的エネルギーのあり方においては、
こうした自我リビドーと対象リビドーと呼ばれる二つの心的エネルギーの方向性のあり方、さらには、そうした心的エネルギーに基づいて生じる自己愛と対象愛と呼ばれる二つの愛の方向性のあり方の間の適切なバランスが保たれていくことによって、
個々の人間にとっての健全な心の状態が保たれていくことになると考えられることになるのです。
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次回記事:自我リビドーと対象リビドーの違いとは?②エネルギー保存の法則の心的エネルギーへの適用と両者の間に成立する対称的な相関関係
前回記事:フロイトとユングの心理学におけるリビドーの捉え方の違いとは?脱性化と根源的な生命力そのもののことを意味する普遍的な精神エネルギーとしてのリビドーの定義、リビドーとは何か?④
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