ブロイラーによる深層心理学の命名とフロイトとユングとの関係とは?深層心理学とは何か?②
前回書いたように、深層心理学という言葉によって表現される心理学の領域は、その源流となる思想においては、
古代における神話的世界や、古代ギリシア哲学におけるヘラクレイトスの思想などとも深い関わりを持つ知の探究の領域であると考えられることになるのですが、
現代心理学において、こうした深層心理学という言葉が実際に用いられるようになったのは、
フロイトやユングといった心理学者たちが、精神分析学や分析心理学といった心理学における新しい分野を切り拓いていくとになる19世紀末から20世紀前半にかけての時代であったと考えられることになります。
ブロイラーによる深層心理学の命名と精神医学界における業績
まず、
精神医学界および心理学界において、深層心理学という言葉が明確な形で使われるようになったのは、フロイトによって精神分析学と呼ばれる心理学理論を確立された19世紀末のドイツ語圏の精神医学界においてであると考えられることになるのですが、
こうした深層心理学、すなわち、ドイツ語の原語ではTiefenpsychologie(ティーフェン・プスュヒョロギー)と呼ばれ、英語ではdepth psychology(デプス・サイコロジー)と訳されている言葉は、もともと、
19世紀後半から20世紀前半のスイスの精神科医であったオイゲン・ブロイラー(Eugen Bleuler、1857年~1939年)によって作り出された造語であったと考えられることになります。
オイゲン・ブロイラーは、こうした深層心理学の分野だけではなく、精神疾患の治療と診断の分野などにおいても優れた業績を残した人物でもあり、
具体的には、例えば、現代の日本の医学界においては統合失調症という言葉が用いられている精神障害のことを意味する言葉であるスキゾフレニア(Schizophrenia、精神分裂病)という言葉も、
もともとはブロイラーによって創設された医学用語として挙げられることになります。
精神科医としてのブロイラーとフロイトとユングとの関係とは?
そして、精神科医としてのブロイラーは、
その後の現代心理学における深層心理学の二大潮流を生み出していくことになったフロイトとユングという二人の心理学者とも極めて近しい関係にあった人物でもあったと考えられていて、
彼は、フロイトが精神分析の技法を開発した当初、科学的な知見に基づかない怪しげな治療を提唱する異端者として医学界から排斥されていた時代に、その治療技法と心理学理論の優れた先見性をいち早く見抜き、彼のことを擁護する立場を取った医学者としても知られています。
また、
ブロイラーは、自分と同じスイスの精神科医であったカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung、1875年~1961年)のチューリヒ大学時代の師にあたる人物でもあり、
彼は、1909年に大学を離れて個人開業を開始することになったユングをフロイトと引き合わせ、両者の間で新たな心理学の発展が生み出されるきっかけを作った人物としても位置づけることができると考えられることになるのです。
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以上のように、
現代心理学において、深層心理学と呼ばれる言葉が、特定の学問分野のことを意味する明確な形で用いられるようになったのは、19世紀末のドイツ語圏の精神医学界においてであったと考えられ、
こうした心理学上の用語としての深層心理学という言葉自体は、フロイトやユングといった心理学者たちとも深い関係のあったスイスの精神科医であるオイゲン・ブロイラーによって命名された言葉であったと考えられることになります。
そして、
こうした深層心理学と呼ばれる心理学の分野が、しっかりとした内実を備えた学問体系として確立されていくのは、
次回取り上げるフロイトによる精神分析学の確立と、その心理学理論の発展を得てからであると考えられることになるのです。
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次回記事:フロイトの精神分析学とは何か?①自由連想法と夢分析に基づく神経症の治療を目的とする精神療法、深層心理学とは何か?③
前回記事:深層心理学と古代ギリシア哲学におけるヘラクレイトスの思想との関係とは?深層心理学とは何か?①
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