心理歴史学とは何か?①アシモフの銀河帝国興亡史におけるハリ・セルダンについての記述と心理歴史学の定義
アイザック・アシモフのSF小説シリーズのなかの「ロボットシリーズ」と並ぶ代表作にあたる「ファウンデーションシリーズ」(銀河帝国興亡史シリーズ)においては、
天才的な数学者であったハリ・セルダンによって提唱された心理歴史学と呼ばれる学問を通じて生み出されたセルダン計画と呼ばれる新たな銀河帝国再生のための計画が登場することになりますが、
それでは、
こうしたアシモフのファウンデーションシリーズにおいて語られている心理歴史学とは、より具体的にはどのような学問のあり方ことを指す言葉であり、
そもそも、いったいどのような意味で、こうした「心理歴史学」という言葉が用いられていると考えられることになるのでしょうか?
『銀河帝国の興亡1』におけるハリ・セルダンと心理歴史学の記述
アシモフの「ファウンデーションシリーズ」(銀河帝国興亡史シリーズ)の第一作目にあたるSF小説である『銀河帝国の興亡1』(Foundation、ファウンデーション)においては、
天才数学者であるハリ・セルダン(Hari Seldon)と、彼の手によって確立された新たな学問分野である心理歴史学(psychohistory、サイコ・ヒストリー)と呼ばれる学問のあり方を中心に物語が展開していくことになりますが、
こうした『銀河帝国の興亡1』の冒頭部分においては、
エンサイクロピーディア・ギャラクティカ(銀河百科大事典)と呼ばれる架空の書物からの引用として示される形で、
こうしたハリ・セルダンと呼ばれる人物についての略歴と、彼がその人生において成し遂げたとされる偉大な業績についての記述がなされています。
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ハリ・セルダン――
……銀河紀元11,988年生、同12,069年没。…
彼は、アークチュルス星域のヘリコン居住の中流家庭に生を受け、幼時にして数学に天才的な才能を発揮した。…
……彼が最大の貢献をなしたのは、いうまでもなく、心理歴史学(サイコ・ヒストリー)の分野である。
セルダンは、この分野が不確かな公理の組合わせにすぎないことを発見し、これを深遠なる統計科学の問題とした……
<エンサイクロピーディア・ギャラクティカ>
(アイザック・アシモフ著、厚木淳訳『銀河帝国の興亡1』、創元推理文庫、10~11ページ。)
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つまり、
上記の引用箇所のハリ・セルダンについての記述においては、
ハリ・セルダンは、それまで不確実であいまいな要素の強かった心理歴史学と呼ばれる学問分野を、数学によって基礎づけられた信頼性と確実性の高い確固たる学問体系へと作り変えていくという偉業を成し遂げた人物であるとされていて、
そうしたハリ・セルダンの代名詞としても語られる心理歴史学と呼ばれる学問のあり方は、統計科学と深い関わりを持つ学問分野であるということが示されていると考えられることになるのです。
アシモフの「銀河帝国興亡史」における心理歴史学の具体的な定義
そして、さらに、
こうしたハリ・セルダンについての記述のしばらく後に出てくる再びエンサイクロピーディア・ギャラクティカ(銀河百科大事典)からの引用が記されている箇所では、
ハリ・セルダンの弟子にあたる若い数学者であったガール・ドルニックの名についても触れられていくなかで、
以下のような形で心理歴史学と呼ばれる学問についての具体的な定義のあり方が述べられていくことになります。
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心理歴史学(サイコ・ヒストリー)――
……ガール・ドルニックは、非数学的概念を用いて<心理歴史学>を定義したが、それは社会・経済的な刺激に対する人間集団の諸反応を取り扱う数学の一分野であり……
これらの諸定理すべてにおいて、統計的処理が適正であるためには、取り扱う人間集団が十分な大きさを持つという暗黙裡の仮定事実があった。…
……さらに、人間集団の反応が真に無目的であるためには、集団自体が心理歴史学的分析を意識していないということが、仮定として必要である。…
<エンサイクロピーディア・ギャラクティカ>
(アイザック・アシモフ『銀河帝国の興亡1』、25~26ページ。)
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つまり、
以上のようなアシモフの銀河帝国興亡史の第一巻の冒頭部分に近い箇所において記されている心理歴史学と呼ばれる学問の定義のあり方についての記述に基づくと、
心理歴史学とは、
天才的な数学者であるハリ・セルダンによって確立された新たな学問分野であり、
それは、社会学あるいは経済学的に、集団としての人間が全体としてどのような方向へと進んで行くことになるかを数学と統計学に基づいて分析していくことを主要な研究テーマとする学問分野であると考えられることになります。
そして、
そうした新たな学問分野のことを意味する言葉として、「心理歴史学」という言葉が用いられている具体的な理由としては、
一言でいうと、
その学問が、集団としての人間の心理を統計学的に分析していくことによって、未来における人類の歴史全体の流れを正確に予測することを目的とした学問であるという意味において、
こうした「心理歴史学」という言葉が用いられていると考えられることになるのです。
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そして、詳しくは、また次回改めて考察していくように、
こうした『銀河帝国の興亡1』の冒頭部分における心理歴史学の定義についての具体的な記述からは、
さらに、そうした心理歴史学と呼ばれる学問の根底にある二つの根本的な原理の存在を読み解いていくことができると考えられることになります。
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次回記事:ハリ・セルダンの心理歴史学における第一原理と物理学における気体分子運動論との関係とは?心理歴史学とは何か?②
前回記事:アシモフの銀河帝国興亡史の根底ある永遠と無限をめぐる二重の計画とは?永遠人と心理歴史学者による人類の歴史への介入
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