HIVウイルスの変異スピードが速い理由と多剤併用療法(HAART療法)の仕組み、DNAウイルスとRNAウイルス③

前回書いたように、

DNAにおけるような遺伝子の修復機能を持たないRNAウイルスの特徴としては、

遺伝子の構造上の不安定さに基づくウイルス遺伝子の変異スピードの速さが挙げられることになります。

そして、

こうしたRNAウイルスの代表的な種類としては、インフルエンザウイルスノロウイルス、さらには、HIVウイルスエイズウイルス)やエボラウイルスなどの名前が挙げられることになりますが、

その中でもHIVウイルスは同じRNAウイルスのなかでも、特に、ウイルスの変異スピードが速くワクチンや抗ウイルス剤によって予防や治療を行うことが困難なウイルスであると考えられています。

それでは、こうしたHIVウイルスに特異的な変異スピードの速さにはどのような原因があると考えられることになるのでしょうか?

スポンサーリンク

HIVウイルスの変異スピードが速い理由とは?

HIVウイルスの変異スピードが速い理由としては、冒頭でも書いた通り、まずは、

HIVウイルスが属するRNAウイルスというウイルスの種族自体がもう一つのウイルスの種族であるDNAウイルスに比べて遺伝性の構造が不安定で、遺伝子の突然変異によるウイルスの変異を頻繁に引き起こしやすいということが挙げられることになります。

二本鎖の構造をしているDNAウイルスにおいては、何らかの原因で遺伝情報が記録されている片方の鎖が損傷を受けても、残されたもう一方の鎖から遺伝情報の復元が行われることによって遺伝子としての構造が安定することになりますが、

一本鎖の構造をしているRNAウイルスにおいては、上記のDNAウイルスにおけるような二本の鎖が互いに互いの欠陥を補い合うような遺伝子の修復機能は存在しないので、

必然的に、DNAウイルスよりもHIVウイルスが属するRNAウイルスの方がウイルス遺伝子の変異のスピードが速くなってしまうことになるのです。

そして、同じRNAウイルスのなかでも、特にHIVウイルスの変異のスピードがずば抜けて速く人間の免疫細胞もその変化に対応できないほどである理由としては、

HIVウイルスにおける遺伝子の突然変異がウイルスの表面にある膜を構成するタンパク質の部分に多く生じることが挙げられることになります。

通常、リンパ球などの人間の免疫細胞は、ウイルスや細菌の表面にある細胞膜やウイルス膜のタンパク質を識別することによって、敵となる有害な侵入者を見分け、

そのウイルスや細菌の表面にあるタンパク質に特異的に反応する抗体などの免疫物質を生産することによって、これらの有害な侵入者を撃退しています。

しかし、

HIVウイルスの場合は、人間の免疫細胞による識別対象となるウイルス表面の膜のタンパク質の構造がすぐにコロコロと変わってしまうので、

リンパ球などの免疫細胞が人体に侵入したHIVウイルスを一度認識して、それに対抗する抗体を生産したとしても、ターゲットとなるウイルス表面のタンパク質の構造がすぐに変異してすぐに抗体が効かなくなってしまい、いつまでたってもウイルスを排除しきることができないという事態に陥ってしまうことになるのです。

そして、こうした現象は、

上記のような人間の免疫システムを利用して、事前にウイルスの構造を免疫系に記憶させることによって感染予防を試みるワクチンや、ウイルスの構造の弱点を分析してそこを突く形で作られている抗ウイルス剤の使用においても同様に生じてしまうことになるので、

HIVウイルスに対しては、通常のウイルス対策におけるようなワクチン接種による感染予防抗ウイルス剤を使った一対一対応の治療が極めて困難となると考えられることになるのです。

スポンサーリンク

HIVウイルスに対する多剤併用療法(HAART療法)の仕組み

そして、

こうしたウイルスの表面タンパク質の変異スピードが異常に速いHIVウイルスに対する治療法としては、現代までに考え出されているほとんど唯一の対抗手段として、

多剤併用療法Highly Active Anti-Retroviral Therapy、略称:HAART療法)やカクテル療法などと呼ばれる治療法が挙げられることになります。

highly active”は高活性」、anti-retroviral”は抗レトロウイルス」を意味するので、全体として“Highly Active Anti-Retroviral Therapy”は直訳すると「高活性レトロウイルス療法」を意味することになります。ちなみに、レトロウイルスretrovirus)とは、HIVウイルスが属するRNAウイルスのより細かいウイルスの分数名を示す言葉です。

HIVウイルスに対する多剤併用療法では、決められたスケージュールに従って、通常、互いに作用機序などが異なる多様なタイプの薬剤を組み合わせた三種類以上の抗ウイルス薬を連続的に服用し続けることになるのですが、

こうした多剤併用療法(HAART療法)では、

三種類以上の抗ウイルス薬同時にかつ連続的に使用し続けることにより、ウイルスの側に個々の抗ウイルス薬に対する耐性を同時に身につける機会を与えないことによって、

HIVウイルスを完全に体内から駆逐しきるまでには至らないものの、ウイルスの増殖と変異のスピードをそいでいき、生命の危機へとつながるような一定のレベル以上にウイルスの数が増加しないようにウイルス量をコントロールしていく方策がとられることになるのです。

・・・

以上のように、

HIVウイルスは、一般的に遺伝子の突然変異が生じる頻度が高いRNAウイルスの中でも、特にウイルスの変異していくスピードが速く、

ウイルス表面のタンパク質をコロコロと変化させていくことにより、人間の免疫を巧みに欺き、その警戒網をいともたやすくすり抜けていくことができる極悪な忍者のようなウイルスであると考えられることになります。

そして、

そうした変装の巧みなHIVウイルスに対する人類側の対抗手段として、多剤併用療法(HAART療法)では、

三種類以上の抗ウイルス薬同時にかつ連続的に使用し続け、ウイルスの側に同時に耐性を身につける機会を与えないことによって、患者ないし感染者の体内のウイルス量をコントロールしていく方策がとられることになるのです。

・・・

次回記事HIVとエイズ(AIDS)の違いとは?HIV感染者とエイズ患者との違い

前回記事:インフルエンザにワクチン接種後にも感染してしまう理由とは?DNAウイルスとRNAウイルス②

生物学のカテゴリーへ
医学のカテゴリーへ

スポンサーリンク
サブコンテンツ

このページの先頭へ