皇帝を表す色は何色なのか?②中国と日本における陰陽五行説に基づく皇族専用の色としての黄色の位置づけ
前回書いたように、古代ローマ帝国を中心とする西洋世界においては、主に、貝紫色や古代紫と呼ばれる巻貝を原料とすることによって得られる赤みがかった紫色が、
ローマ皇帝やその後のヨーロッパの国々を統べる王者を象徴する色として用いられていくことになったと考えられることになるのですが、
それに対して、
中国や日本といった東洋世界においては、黄袍(こうほう)や黄丹袍(おうにのほう)といった大きく分けると黄色の系統に属する色が天子や皇帝、皇太子といった皇族の象徴とされる色として位置づけられていくことになっていったと考えられることになります。
中国における皇帝専用の上衣としての黄袍と陰陽五行説との関係
詳しくは「皇帝と黄帝の関係とは?」の記事で書いたように、
紀元前221年に秦の始皇帝によって歴史上はじめて中国全土が統一され、中国において皇帝と呼ばれる存在がはじめて誕生することになる以前の
紀元前3世紀頃の古代中国の戦国時代において唱えられたと考えられる陰陽五行説の思想においては、
五行(ごぎょう)と呼ばれる木・火・土・金・水という五種類の元素と色彩や方位との間には、
木・火・土・金・水という五行のそれぞれが、東・南・中央・西・北という方位や位置、そして、青・赤・黄・白・黒という色彩に対応するという対応関係が存在すると説明されることになります。
そして、
こうした五行のそれぞれに対応する青・赤・黄・白・黒という五色の色彩が万物におけるあらゆる色彩の源となる正色(せいしょく)として位置づけられたうえで、
そうした正色のなかでも、東西南北という四つの方位の中央に位置する五行では土、色彩では黄に相当するものが万物の中心にある最も高い序列に位置づけられる色として捉えられていくことになります。
そして、
こうした古代中国における戦国時代以降、中国の最初の皇帝である秦の始皇帝においても、その後、秦を滅ぼして新たな帝国を築くことになった紀元前2世紀~紀元後3世紀の漢の時代においても、
上述した陰陽五行説を中心とする古代中国思想に基づいて、皇帝の衣には、万物の中心を意味する黄の色彩が用いられることが多くなっていったと考えられることになるのですが、
さらに、その後の6世紀にはじまる隋や、7世紀から9世紀まで続く唐の時代になると、黄色の色彩によって染められた上衣である黄袍(こうほう)が、皇帝専用の正式な常服としてより明確な形で規定されていくことになり、
一般庶民においては、こうした皇帝を象徴する色である黄色を用いた服を着用すること自体が禁止されるようになっていくことになるのです。
皇太子が用いる黄丹の衣と天皇の正装である黄櫨染の衣
そして、
日本においても、特に、こうした隋や唐の時代における中国の文化や政治体制のあり方が広く受け入れられていくなかで、
基本的には、上述した陰陽五行説を中心とする古代中国思想に基づく色彩の位置づけのあり方はそのまま踏襲されていくことになります。
例えば、
日本においては、皇太子が儀式の際に着用する束帯装束には、黄丹(おうに)と呼ばれる赤みがかった黄色の色彩が用いられ、
それに対して、
天皇が儀式の際に着用する束帯装束には、黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)と呼ばれる茶色がかった黄色の色彩が用いられることになり、
こうした黄丹や黄櫨染といった色彩は、天皇や皇太子といった皇族以外の着用が許されない色、すなわち、禁色(きんじき)として一般庶民はもちろん、臣下となる官人や貴族たちにおいてもそうした色によって染められた服の着用が禁止されていくことになるのです。
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以上のように、
中国においては、古代中国における陰陽五行説の思想に基づいて、黄色が万物の中心にある色として最も高い序列に位置づけられることになり、
隋や唐の時代においては、こうした黄の色彩によって染められた上衣である黄袍(こうほう)が、皇帝専用の正式な常服として規定されていくことになります。
そして、
そうした隋や唐の時代における中国文化の影響下にあった日本においても、基本的には、こうした陰陽五行説などの古代中国思想に基づいて黄色を重視する姿勢はそのまま踏襲されていくことになり、
日本においては、赤みがかった黄色である黄丹や、茶色がかった黄色である黄櫨染といった黄色を基調とする色彩が、皇太子や天皇といった皇族を象徴する色として用いられるようになっていったと考えられることになるのです。
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次回記事:冠位十二階において紫色が最上位の色である理由とは?陰陽思想と儒教思想と道教思想における色彩の序列関係の違い
前回記事:皇帝を表す色は何色なのか?①古代ローマにおける王者の色としての紫色の位置づけ
関連記事:皇帝と黄帝の関係とは?陰陽五行説における万物の中心としての土と黄と中国神話における「王の中の王」としての黄帝
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