皇帝の由来とは何か?秦の始皇帝と中国神話における三皇五帝との関係
皇帝とは、英語のエンペラー(emperor)や、ドイツ語のカイザー(Kaiser)、ラテン語のインペラトル(imperator)に相当する天子や国王の最大級の尊称として用いられる言葉であり、
単なる一つの国家や民族の王であるというよりは、それらの諸国の王を自らの支配のもとに従える王の中の王、君主の中の君主、さらには、すべての存在の上位に存在する超越者や唯一神にも匹敵するような絶対者のことを意味する言葉であると考えられることになります。
今回は、こうした皇帝という言葉の由来と、この言葉がもともと持っている本源的な意味のあり方について、
秦の始皇帝の覇業と、中国神話における伝説上の聖王である三皇五帝との関係から詳しく考えていきたいと思います。
秦の始皇帝による中国統一の覇業と皇帝の称号の選定
紀元前247年に中国北西部を領有する戦国七雄のうちの一国である秦(しん)の国の王位をわずか13歳で継承した嬴政(えいせい)は、
秦王に即位すると、戦国七雄のうちの残りの六国である隣国の韓(かん)と趙(ちょう)、北方の燕(えん)、残った隣国である魏(ぎ)と、東方の大国である楚(そ)、そして、最後に残された斉(せい)を次々と攻め滅ぼして自らの領土を限りなく拡大させていき、
紀元前221年、ついに、
かつて夏(か)、殷(いん)、周(しゅう)という古代中国の歴代王朝や、その後の春秋戦国時代に興亡を繰り広げた秦・楚・燕・斉・韓・魏・趙、さらには、晋・宋・呉・越・魯・衛・曹といった国々が有していたすべての領土を征服し、
華北と華南、すなわち、黄河と長江(揚子江)が流れるすべての領域を支配することによって、歴史上はじめて中国全土の統一を成し遂げることになります。
そして、
中国全体の統一を果たした秦王嬴政は、新たに、中国全土を領有する統一国家としての秦の初代皇帝として即位し、始皇帝という尊称で呼ばれるようになっていくのですが、
このようにして秦の帝王の覇業を世界全土にあまねく知らしめるために、秦王であった嬴政に新たに冠された尊称として皇帝という言葉が新たに選定されることになったと考えられることになるのです。
中国神話における三皇五帝と皇帝の称号との関係
それでは、
いったいどのような理由から、こうした中国全土を領有する最大級の統一国家の元首に対する称号に「皇帝」という言葉が新たに用いられるようになったのか?ということについてですが、
それは、一言でいうと、
中国神話において語られている伝説上の聖王や帝王、さらには古代の神々のことを意味する総称である三皇五帝(さんこうごてい)という言葉に由来していると考えられることになります。
皇帝あるいは三皇五帝という言葉に用いられている「皇」と「帝」という漢字は、それぞれ、
「皇」は、光を放つ日の象徴である「白」と、その威光が大きく盛んであることを示す「王」が結びついてできた字であり、美しく大であることを示す漢字であると考えられるのに対して、
「帝」は、神を祀る台に降臨する天の神のことを表していて、為政者の徳が天に合することをとを示す漢字であると考えられることになります。
そして、
中国神話においては、まず、三皇(さんこう)として、
天皇(てんこう)・地皇(ちこう)・人皇(じんこう)と呼ばれる三人の伝説上の帝王や、
伏羲(ふっき)・女媧(じょか)・神農(しんのう)といった三柱の古代の神々や帝王の名が挙げられたうえで、
こうした三皇と呼ばれる伝説上の神々や帝王の手によって人間の創造や、現在の世界における自然界や社会の基本的な構造が創り上げられていったと説明されることになります。
そして、
こうした三皇による治世の後には、
黄帝(こうてい)・顓頊(せんぎょく)・嚳(こく)・尭(ぎょう)・舜(しゅん)といった伝説的な聖王である五帝(ごてい)による治世が続き、
こうした三皇と五帝による治世の後に、
夏(か)、殷(いん)、周(しゅう)といった歴史時代における古代中国の歴代王朝の興亡の時代が始まっていくことになると考えられることになります。
つまり、
現実の歴史において中国全土の統一を成し遂げた秦の始皇帝は、こうした三皇五帝の称号をすべて合わせるほどの偉業を成し遂げ、
さらには、こうした神話時代における伝説的な古代の聖王たちや神々による治世をも凌ぐ(しのぐ)ほどの最高の高みへと至ったということを示すために、
皇帝という称号が用いられることになったと考えられることになるのです。
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次回記事:皇帝と黄帝の関係とは?陰陽五行説における万物の中心としての土と黄と中国神話における「王の中の王」としての黄帝
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