四凶とは何か?中国神話における四つの悪徳を体現する悪神と悪獣の名前とその具体的な特徴
中国神話においては、古代中国における伝説上の皇帝である五帝のうちの一人にして太陽神とも同一視されることもある伝説上の君主である舜(しゅん)の時代に、
人民を苦しめ、天下に害悪を及ぼす悪神として討伐され、四方の辺境の地へと放逐されたとされている四凶(しきょう)と呼ばれる四柱の悪神が出てきます。
そして、
孔子によって記された歴史書であるとされる『春秋』の注釈書として紀元前5世紀頃に記されたと考えられる『春秋左氏伝』(しゅんじゅうさしでん)においては、
渾沌(こんとん)、窮奇(きゅうき)、檮杌(とうこつ)、そして、饕餮(とうてつ)
という四つの怪物の名前がこうした四凶と呼ばれる存在として挙げられることになるのですが、
それでは、
こうした『春秋左氏伝』などにおいて記されている渾沌・窮奇・檮杌・饕餮と呼ばれる四柱の悪神や悪獣は、具体的にどのような性質と特徴を持っていると考えられ、
こうした四柱の悪神のそれぞれは、具体的にどのような悪徳を体現する怪物であると考えられることになるのでしょうか?
混沌(カオス)と怠惰を体現する怪物としての「渾沌」
まず、
こうした四凶と呼ばれる悪神や悪獣のうちの最初のものとして挙げられている渾沌(こんとん)についてですが、
混沌は、全身が長い毛によって覆われた犬のような姿をしていて、熊のように太い足を持っているが爪はなく、目があるのに何も見ることができず、耳があるのに何も聞くことができず、
自らの尾を自分自身でくわえていつまでも同じところをグルグルと回っているか、何も映さない虚ろな目でただポカンと空の方を向いてニタニタと笑っているだけで、いつまでたっても前に進むこともなければ、何か有意義なことを成すこともないとされています。
つまり、
こうした渾沌と呼ばれる怪物は、その名の通り、混沌、すなわち、カオスを体現すると同時に、何事も成さないことによってすべての物事を無意味な存在へと引きさらっていく怠惰といった悪徳を体現する怪物でもあると考えられることになるのです。
不正と背信を体現する悪獣としての「窮奇」
そして、
その次に挙げられている窮奇(きゅうき)と呼ばれる悪獣は、
ハリネズミのような鋭い毛が生えた牛のような姿をしているとも、そうではなく、翼の生えた虎のような姿をしているとも伝えられていて、
人間の言葉を理解することができる知性を持った霊獣である窮奇は、争いごとやいさかいを起こしている人間たちのもとへと近づくと、正しい主張をしている者の方を食い殺してしまい、嘘をついたり悪事を成している人間には自分が捕えた獣の肉を与えるとされています。
つまり、
こうした窮奇と呼ばれる怪物は、悪人を助けて善人を陥れるというあまのじゃくな言動をする妖怪であり、
それは、人間で言うと、不正や背信といった悪徳を体現する霊獣や悪獣であると考えられることになるのです。
頑迷なる無知に基づく粗暴さを体現する悪獣としての「檮杌」
また、
その次に挙げた檮杌(とうこつ)と呼ばれる悪獣は、
長い尾が生えた虎のような力強い体に、猪のような長く鋭い牙の生えた人間の頭を持って、人間の頭を持っているのに人間の言葉を理解することもなければ、自らの行いを顧みて改めることも一切なく、
争いを好んで荒野の中を好き勝手に暴れ回り、いったん戦いを始めると、周りの状況などには一切かまうことなく、どこまでも死ぬまで戦い続けるとされています。
そして、
こうしたことから、檮杌には、それが他人が言うことを全く理解せずに、常に自分勝手に荒々しく振る舞う悪獣であるということから、
教え導き訓化していくことが難しいという意味で難訓(なんくん)という異名も与えられているのですが、
つまり、
こうした檮杌と呼ばれる怪物は、自らの無知と頑固さから、話し合いなどによって他者と和解するということを知らずに、常に天下の平和を乱して争いと戦乱を引き起こし続けるという
無知と頑迷さに基づく粗暴さや暴力性といった悪徳を体現する悪獣であると考えられることになるのです。
貪食と貪欲を体現する悪獣または悪神としての「饕餮」
そして、
四凶のなかの最後に挙げられている饕餮(とうてつ)とは、それがかつて漢民族の祖である黄帝とも覇権を競って戦った古代の戦神である蚩尤の頭とされこともあるように、四凶のなかでも別格の地位に位置づけられる悪神であると考えられることになるのですが、
こうした饕餮と呼ばれる怪物は、詳しくは、「饕餮(とうてつ)とは何か?青銅器の文様や『山海経』における姿形の具体的な描写と古代の戦神である蚩尤との関係性」の記事で書いたように、
大きな口と羊のような曲がった角を持った頭だけがあって体はないとも、体は羊や牛のようでありながら頭部と爪は人間のようであって脇の下に目を持つなどとも伝えられていて、
目につくものは石でも山でも人間でも何でもかんでも食べてしまい、ありとあらゆるものを貪り尽くすというどこまでも果てしなく貪欲な怪物であるとされています。
つまり、
こうした饕餮と呼ばれる怪物は、己の目につくものは、それが食物であれ財貨であれ、目につくまま食らい尽くし、貪り続けていくという
貪食と貪欲といった悪徳を体現する悪獣または悪神の一種であると考えられることになるのです。
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以上のように、
中国神話において、世界に災厄をもたらす元凶として位置づけられている四凶(しきょう)と呼ばれる四柱の悪神の名としては、
一般的には、『春秋左氏伝』などにおいて記されている
渾沌(こんとん)・窮奇(きゅうき)・檮杌(とうこつ)・饕餮(とうてつ)
という全部で四つの怪物の名前がこうした四凶と呼ばれる存在として挙げられることになります。
そして、
こうした四凶として挙げられるそれぞれの怪物は、
渾沌は、その名の通り混沌(カオス)を示すと同時に怠惰といった悪徳をも体現し、
窮奇は、悪人を助けて善人を陥れるという不正と背信を体現し、
檮杌は、頑迷なる無知に基づく粗暴さと暴力性を体現し、
饕餮は、己の目につくすべてのものを貪り尽くす貪食と貪欲さを体現している
というように、
渾沌・窮奇・檮杌・饕餮と呼ばれる四柱の悪神や悪獣のそれぞれは、
怠惰・背信・暴力・貪欲という四つの悪徳を体現する怪物として捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:四罪とは何か?中国神話において国と社会に害悪を及ぼす源とされた共工・驩兜・三苗・鯀という四人の罪人の名
このシリーズの前回記事:饕餮(とうてつ)とは何か?青銅器の文様や『山海経』における姿形の具体的な描写と古代の戦神である蚩尤との関係性
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