クロララクニオン植物とは何か?、アメーバや粘菌のような生態を営みながら光合成を行う異形の藻類の種族、藻類とは何か?⑬
藻類と呼ばれる生物の種族の分類のあり方と、代表的な藻類の種族の具体的な特徴について考えてきた前回までの一連のシリーズでは、
コンブやワカメやノリといった一般的な海藻などが含まれる緑藻類・紅藻類・褐藻類といった狭義における藻類の種族に始まり、
渦鞭毛藻やクリプト藻やラフィド藻といった鞭毛藻類に含まれる単細胞性の藻類の種族から、珪藻類と藍藻類、さらには、灰色藻やユーグレナ植物といったそれぞれ互いに大きく異なる特徴を持った様々な藻類の種族について取り上げてきましたが、
今回、そうした様々な藻類の種族のなかでもより特異的な特徴的な種族として最後に取り上げるクロララクニオン植物と呼ばれる藻類の種族は、
葉緑体を持って光合成を行う海産性の藻類に分類されるにもかかわらず、アメーバや粘菌などの生物と似通った生態を営んでいるという一風変わった藻類の種族であると考えられることになります。
原生動物のアメーバのように仮足を用いて移動と捕食を行う藻類の種族
クロララクニオン植物あるいはクロララクニオン藻と呼ばれる藻類の種族のことを意味するChlorarachnion(クロララクニオン)という言葉は、
もともと、ギリシア語において「緑色」を意味するchloro(クロロ)と、「クモの巣」を意味するarachnion(アラクニオン)という二つの単語が結びつくことによってつくられた言葉であり、
クロララクニオン植物は、その名の通り、葉緑体を持って光合成を行う単細胞性の藻類に分類される種族でありながら、
自らの細胞の本体部分から、まるでクモの巣を張るかのように、細長い触手のような仮足を伸ばして移動と捕食を行うという動物と植物の性質をあわせ持った藻類の種族であると考えられることになります。
ところで、
こうした動物と植物の性質をあわせ持った藻類の種族としては、渦鞭毛藻やクリプト藻やラフィド藻などの鞭毛藻類や、ミドリムシに代表されるユーグレナ植物なども挙げられることになるように、
そうした単細胞性の藻類の種族のうちでは、鞭毛などの運動性の器官を備えることによって一定の運動性の機能を持つことは、さほど珍しい性質ではないとも考えられることになるのですが、
クロララクニオン植物の場合には、そうした鞭毛のような単なる補助的な器官によって部分的に細胞の移動が可能となっているだけではなく、
まさに、
細胞の変形によって形成される仮足を用いたアメーバ運動によって移動と捕食を行う原生動物であるアメーバのように、全身の細胞を変形させていくことによって移動と捕食を行うという点に、そうした他の微細な藻類の種族との間の具体的な性質の違いが見られると考えられることになります。
そして、
クロララクニオン植物は、そうした自らの細胞を変形させることによって形成されるクモの巣のように見える糸状仮足を用いて、
周りに存在する細菌や鞭毛虫、微細な藻類といったあらゆる微生物を捕食する貪食作用を持った生命体であると考えられることになるのですが、
つまり、
クロララクニオン植物あるいはクロララクニオン藻と呼ばれる藻類の種族は、
葉緑体を持って光合成を行いながら、原生動物であるアメーバのように仮足を用いて移動と捕食を行うというように、細胞全体が運動性と捕食性を持っているという点に特異的な特徴があると考えられることになるのです。
植物界と動物界と菌界におけるアメーバ状の生物たち
ちなみに、
本来は動物に分類される生物ではないはずなのに、こうした原生動物であるアメーバのような生態を営む生物の種類としては、
こうした広義における藻類に含まれるクロララクニオン植物の他にも、広義における菌類に含まれる粘菌(変形菌)と呼ばれる生物の種族なども挙げられることになります。
詳しくは、「粘菌とは何か?」の記事で書いたように、
粘菌あるいは変形菌と呼ばれる生物は、カビやキノコなどと同様に胞子によって生殖を行うという菌類の性質と、原生動物であるアメーバのように細胞体を変形させて移動と捕食を行うという動物の性質とをあわせ持った生物であると考えられることになるのですが、
そういう意味では、
自らの細胞を変形させることによって形成される仮足を用いて細胞全体で移動と捕食を行っていくという生態のあり方は、
原生動物であるアメーバだけに限らず、動物・植物・菌類といった基本的な生物の種族の枠組みを超えて、すべての生物界において広く見られる生物の基本的な生態の一つであると捉えることもできるとと考えられることになるのです。
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以上のように、
クロララクニオン植物またはクロララクニオン藻と呼ばれる藻類の種族は、
葉緑体を持って光合成を行う海産性で単細胞性の藻類に分類される種族でありながら、アメーバのように細胞全体を変形させ、クモの巣のように見える糸状仮足を用いて移動と捕食を行うという変わった特徴を持った生物であり、
それは、独立栄養生物としての植物の性質と、従属栄養生物としての動物の性質をあわせ持った混合栄養生物に分類される比較的特殊な生物の種族であると考えられることになります。
そして、そういう意味では、
こうしたクロララクニオン植物と呼ばれる生物は、本来は藻類という植物の一種に分類されるはずであるにもかかわらず、
広義における菌類の一種である粘菌(変形菌)や、原生動物であるアメーバとも生物としての基本的な構造において深い関わりと共通点を持った異形の藻類の種族であるとも考えられることになるのです。
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次回記事:
前回記事:灰色植物とは何か?②あらゆる植物の祖先にあたる原始的な植物細胞に最も近い構造をした生物の種族、藻類とは何か?⑫
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