粘菌とは何か?菌類と動物の能力をあわせ持つ生物としての粘菌と、多数の核を持った一つの細胞から形成される変形体の構造
「菌類と細菌の違いとは?」の記事で書いたように、広義における菌類には、キノコやカビ、酵母といった狭義における菌類である真菌類のほかに、細菌や粘菌といった生物の種族も含まれることになります。
そして、
このうち、粘菌(ねんきん)と呼ばれる種族は、生物学においては変形菌とも呼ばれているように、一言でいうと、
アメーバ状の生物体を変形させながら、土の中などに存在する微生物を捕食することによって成長していく菌類のことを指して、こうした言葉が用いられていると考えられることになるのですが、
それでは、
こうした広義の意味の菌類に含まれている粘菌(ねんきん)と呼ばれる生物の種族は、より具体的にはどのような特徴を持った生物であると考えられることになるのでしょうか?
多数の核を持った一つの細胞から形成される粘菌の変形体の構造
冒頭で述べたように、粘菌あるいは変形菌と呼ばれる生物は、
普段は、地中や枯れ木の内部などにおいて、アメーバ状の生物体(変形体)を徐々に変形させていくアメーバ運動を行いながらバクテリアなどの微生物を捕食することによって自らの内に栄養を取り入れていくことになるのですが、
そうして自らの細胞内に養分を取り入れた粘菌は、やがて、細胞分裂を伴わない核分裂を繰り返すことによって、地中や枯れ木の内部などで薄く広がっていき、
一つの細胞の内に無数の核が存在する多核体の細胞質の塊へと成長していくことになります。
こうした粘菌における変形体の成長は、通常の場合は、全長数センチ~10センチメートル程度にとどまることになるのですが、なかには、直径1メートル以上の巨大な変形体を形成するケースもあり、
そのような場合でも、こうした巨大な粘菌の変形体の全体は、基本的には、そうした多数の核を持った一つの細胞のみによって形成されていると考えられることになります。
そして、
こうした粘菌における変形体の成長が一定の大きさにまで到達すると、粘菌は地上や木の表面へと移動していき、そこで、次世代の生物体の源となる胞子を形成するために、
自らの体の一部分を地表へ表出させたうえで、その部分に小さなキノコのような子実体を形成することによって胞子の形成を行っていくことになるのですが、
そのようにして形成された子実体から放出された胞子たちが、新たな場所で発芽することによって、そこから新たな粘菌の変形体の成長が始まっていくことになるのです。
菌類と動物の能力をあわせ持つ生物としての粘菌
以上のように、
粘菌(変形菌)とは、地中や枯れ木の内部などにおいて、多数の核を持った一つの細胞から形成される変形体を移動させるアメーバ運動を行いながら微生物を捕食することによって自らの体を成長させ、
やがて、成長した自らの体の一部を子実体へと変形させることによって、胞子の形成を行っていく生物であり、
それは、胞子によって生殖を行う菌類でありながら、単細胞動物であるアメーバのように自らの体を変形させることによって徐々に移動と捕食を行っていく生物でもあると考えられることになります。
以前に、「菌類と植物の違い」の記事で書いたように、
もともと、菌類という生物の種族自体が、動物と植物の性質を半分ずつ持った両者の中間に位置する存在であるとも捉えられることになり、
あるいは、逆に言えば、
いまから35億年ほど前の太古の昔に、
動物も植物も、細菌や菌類のような存在から互いに分化していくことによって、現在の地球上の生態系における動物と植物そして菌類といった生物の諸系統が成立していったとも考えられることになるわけですが、
そういう意味では、
粘菌とは、胞子によって生殖を行うという菌類の性質と、移動や捕食を行うという動物の性質の両方を兼ね備えた、両者の中間に位置する
菌類と動物の能力をあわせ持った生物であるとも考えられることになるのです。
・・・
次回記事:粘菌(変形菌)とカビやキノコなどの真菌類を区別する三つの特徴の違いとは?
前回記事:カビとキノコの違いとは?両者における菌糸の構造とコロニーと組織体という集合体の形成のされ方の違い
「生物学」のカテゴリーへ
「語源・言葉の意味」のカテゴリーへ