三段論法(シロギズム)の語源とは?アリストテレスにおける演繹的推論としてのシュロギスモスの定義
三段論法(syllogism、シロギズム)とは、一般的には、
大前提と小前提と呼ばれる二つの前提からの必然的な論理展開によって一つの結論が導き出されるという推論の形式のことを意味する言葉ですが、
こうした日本語では三段論法、英語ではsyllogism(シロギズム)、ドイツ語ではSyllogismus(ズュロギスムス)、ラテン語ではsyllogismus(シロギスムス)と呼ばれる言葉の大本の語源は、
紀元前4世紀の古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスによって書き記された論理学に関する著作群の内の『分析論前書』という著作の中に出てくる古代ギリシア語のsyllogismos(シュロギスモス)という言葉に求められると考えられることになります。
アリストテレスにおける演繹的推論としてのシュロギスモスの定義と三つの命題から構成される推論の形式
アリストテレスの『分析論前書』においては、まず、
シュロギスモス(syllogismos)という言葉は、「いくつかの前提となる事柄から、もとの前提とは異なる事柄が必然的に帰結する推論のあり方」を意味する言葉として定義されれることになりますが、
以前に「演繹法と帰納法の違い」の記事などで書いたように、
論理学においては、一般的に、実験や観察といった経験的事実を必要とせずに、一般的な理論や普遍的な概念の定義といった前提からの必然的な論理展開のみによって結論を導き出す推論のあり方のことを指して、演繹あるいは演繹的推論という言葉が用いられることになります。
つまり、そういう意味においては、
ここでアリストテレスが述べているシュロギスモスと呼ばれる概念とは、一義的には、前提からの必然的な論理展開によって結論を導き出す演繹的推論のことを意味する概念として捉えられることができると考えられることになるのです。
そして、そのうえで、『分析論前書』においては、
そうしたシュロギスモスと呼ばれる推論における典型的な推論の形式として、
大前提と小前提と呼ばれる二つの前提が、中名辞や媒概念と呼ばれる言葉によって結びつけられることによって一つの結論を導き出すという
大前提・小前提・結論という三つの命題から構成される推論の形式が提示されることになります。
例えば、
大前提:すべての生物は死すべきものである。
小前提:すべての人間は生物である。
結論:ゆえに、すべての人間は死すべきものである。
という推論においては、
大前提と小前提と呼ばれる二つの命題が、「生物」という媒概念によって関連づけられることによって、「すべての人間は死すべきものである」という結論が必然的に導き出されていると考えられることになります。
そして、上記の推論の形式においては、例えば、
大前提:すべての哺乳類は動物である。
小前提:すべてのネズミは哺乳類である。
結論:ゆえに、すべてのネズミは動物である。
というように、前述した推論における「生物」・「死すべきもの」・「人間」という三つの事柄を他のいかなる事柄と入れ替えても、
前提となる二つの命題が真である限り、推論の形式のみから必然的に真なる結論が導き出されると考えられることになります。
そして、アリストテレスは、
上記のような大前提・小前提・結論という三つの命題から構成される推論の形式において、
「肯定(~である)」と「否定(~ではない)」、「全称(すべての~)」と「特称(ある~)」といったどのような命題の種類の組み合わせの場合に、常に妥当な推論として成立していて、どのような組み合わせの場合には必ずしも妥当な推論としては成立しないのか?
という問題について、体系的に詳しく調べ尽くしていくことによって、こうしたシュロギスモスと呼ばれる論理的推論についての議論をより深めていくことになるのです。
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以上のように、
アリストテレスの『分析論前書』においては、
実験や観察といった経験的事実による助けを一切必要とせずに、前提となる命題からの必然的な論理展開のみによって結論が導き出される必然的な推論のあり方がシュロギスモス(syllogismos)という言葉の定義として捉えられたうえで、
そうしたシュロギスモスと呼ばれる論理的推論のあり方の典型的な推論の形式として、大前提・小前提・結論という三つの命題から構成される推論の形式が提示され、
その後の議論においては、どのような命題の種類の形式的な組み合わせの場合に、そうした三つの命題から成る推論の形式が普遍的に妥当な結論を導く形式として認められることになるのか?ということについての膨大な量の考察が進められていくことになります。
つまり、
三段論法(syllogism、シロギズム)という言葉の大本の語源となったアリストテレスの論理学に出てくる古代ギリシア語のsyllogismos(シュロギスモス)という言葉は、
狭義の意味においては、上記のような大前提・小前提・結論という三つの命題から構成される推論の形式のことを意味すると考えられることになるのですが、
広義の意味においては、シュロギスモスとは、前提となる命題からの必然的な論理展開のみによって結論が導き出される演繹的推論、
より正確に言えば、普遍的に妥当な結論を導く形式をもった演繹的推論のことを意味する言葉であったと考えられることなるのです。
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次回記事:直接推論と間接推論の違いとは?演繹的推論の二つの分類とそれぞれの推論のあり方の具体例
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