プラトンの『パイドロス』における魂の三段階の階層構造と二頭立ての馬車の比喩、プラトンの魂の三部分説②
前回書いたように、
プラトンの主著の一つであり、中期対話篇にあたる『国家』においては、行政と統治、国防と治安、経済活動という国家の三つの機能に対応づけられる形で、
知性的部分と気概的部分と欲望的部分という魂の三部分説が説かれています。
そして、同じくプラトンの中期対話篇に分類される著作である『パイドロス』においては、『国家』における議論とはまた少し異なった視点から、魂の三部分説を巡る議論が展開されていくことになるのです。
『パイドロス』における有翼の御者と二頭立ての馬車の比喩
プラトンの中期対話篇『パイドロス』においては、人間の魂が真善美についての知を求めて限りなく上昇していこうとする上り道の愛であるエロスの働きによって翼を得て、天上のイデアの世界へと上昇していく姿が描かれていますが、
こうした『パイドロス』における人間の魂の上昇と救済の姿は、有翼の御者によって導かれて天空を駆け上っていく二頭立ての馬車という比喩を通して語られていくことになります。
それでは、こうした『パイドロス』の記述において、人間の魂の各部分を象徴する存在として示されている有翼の御者と二頭の馬のそれぞれには、
『国家』の魂の三部分説における知性的部分と気概的部分と欲望的部分のいずれの部分が該当することになるのか?ということについてですが、
まず、
『パイドロス』において二頭立ての馬車を率いている有翼の御者が、エロスの働きによって真善美についての普遍的な知を求めていくという知性や理性の働きを担う存在として描かれている以上、
こうした有翼の御者には、魂の三部分説における知性的部分が該当していると考えられることになります。
それに対して、
実際に馬車を走らせるための原動力となる二頭の馬には、魂の三部分説における気概的部分と欲望的部分がそれぞれ該当することになると考えられるのですが、
『パイドロス』において御者によって率いられている二頭の馬の姿は、互いに似通った同じような姿として描かれているわけではなく、
片方の馬は均整のとれた美しい姿をしていて、御者の命令を聞くだけで、すぐにその言葉に従ってすみやかに歩みを進める従順で美しい馬として描かれているのに対して、
もう一方の馬は体形の整わない醜い姿をしていて、御者の命令にも鞭を振るわれなければすぐに従うことのない気性の荒い醜い荒馬として描かれていて、
このうちの前者の美しい馬には魂の三部分説における気概的部分が、後者の醜い馬には欲望的部分がそれぞれ該当していると考えられることになります。
つまり、下図において示したように、
『パイドロス』において天上のイデアの世界へと駆け上っていく二頭立ての馬車の比喩においては、
馬車を率いる有翼の御者には知性的部分が、二頭の馬のうちの美しい馬には気概的部分が、醜い馬には欲望的部分がそれぞれ対応づけられる形で、魂の三部分説を巡る議論が再び語られていると考えられることになるのです。
『パイドロス』における人間の魂の三段階の階層構造
そして、こうした『パイドロス』における二頭立ての馬車と魂の三部分との対応関係に基づくと、
プラトンの魂の三部分説において、人間の魂を構成している知性的部分と気概的部分と欲望的部分の三者は必ずしも互いに対等な関係であるわけではなく、
三者の間には、一定の序列関係が存在するとも考えられることになります。
つまり、
気概的部分を象徴する美しい馬は、欲望的部分を象徴する醜い馬よりも優れた存在であり、
御者によって支配されている二頭の馬よりも、馬を支配している御者の方がより優れた存在であるというように、
三者の間には、
最下位の階層には、肉体の欲求に基づく欲望によって常に突き動かされている欲望的部分が位置づけられるのに対して、
中段の階層には、知性の判断に肉体の行動を従わせる意志の働きを担う気概的部分が位置づけられ、
最上位の階層には、欲望的部分と気概的部分の両者を含めた精神活動全体を統括する知性的部分が位置づけられるという三段階の階層構造が存在していると考えられることになるのです。
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以上のように、
プラトンの中期対話篇『パイドロス』において語られている二頭立ての馬車の比喩においては、
馬車を率いる有翼の御者に知性的部分が、二頭の馬のうちの美しい馬に気概的部分が、醜い馬に欲望的部分がそれぞれ対応づけられる形で、
魂の三部分説が新たな視点から語り直されていると考えられることになります。
そして、こうした『パイドロス』における議論に基づくと、
魂の三部分は、知性的部分を頂点とする三段階の階層構造において成立していることが明らかになると考えられることになるのです。
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次回記事:プラトンにおける魂の三部分説と真善美の三つのイデアの対応関係、プラトンの魂の三部分説③
前回記事:プラトンの『国家』における魂の三部分説と国家の三つの機能との対応関係、プラトンの魂の三部分説①
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