安楽死(エウタナシア)の語源と善い生の先にあるべき善い死のあり方、安楽死と尊厳死の違いとは?①
安楽死(euthanasia、ユーサネイジア)とは、回復の見込みのない不治の病に苦しむ重病人などに対して、本人の明確な意志に基づく依頼のもとに、そうした苦痛を取り除くために人為的な死をもたらす行為を意味する言葉ですが、
これと似た行為を意味する言葉としては、一般的に、尊厳死(death with dignity、デス・ウィズ・ディグニティ)という言葉も使われています。
この安楽死と尊厳死という二つの言葉の語源には、それぞれ具体的にどのような概念が含まれていると考えられることになるのでしょうか?
安楽死の語源とは?善い生の先にあるべき善い死のあり方
冒頭でも書いたように、
安楽死は英語ではeuthanasia(ユーサネイジア)と表記されることになりますが、
このeuthanasiaという言葉は、もともとは古代ギリシア語のeuthanasia(エウタナシア)という単語がそのまま英語読みされることによってできた言葉であり、
euthanasiaは、ギリシア語で「善い」を意味するeu(エウ)と、「死」を意味するthanatos(タナトス)という言葉が結合してできた言葉ということになります。
つまり、
安楽死の語源となった古代ギリシア語におけるeuthanasia(エウタナシア)という言葉は、もともと「善い死」のあり方のことを意味する言葉であったと考えられることになるのです。
ちなみに、
ギリシア語で幸福を意味する言葉は、eudaimonia(エウダイモニア)という言葉になるのですが、これは、上記のeuthanasia(エウタナシア)という言葉と同じように、
ギリシア語で「善い」を意味するeu(エウ)に、「神や精霊、運命」などのことを意味するdaimon(ダイモーン)という言葉が結びついてできた言葉であり、
もともとは、神や精霊の導きのもと、善い生を送ることを意味する言葉であったと考えられることになります。
つまり、
人間の幸福の本質とは、一言でいうと善い生を送ることにあり、そうした幸せな善い生としてのエウダイモニア(eudaimonia)を全うするためには、善い生の先にあるべき到達点として善い死のあり方が求められることになるのですが、
そうした善い死のあり方、すなわち、エウタナシア(euthanasia)を自らの手によって実現するための方法として安楽死という死のあり方が求められるようになっていったと考えられることになるのです。
尊厳死の語源と現代における安楽死と尊厳死の起源とは?
そして、それに対して、
尊厳死は英語ではDeath with Dignity(デス・ウィズ・ディグニティ)やDignity in Dying(ディグニティ・イン・ダイイング)、あるいはDignified death(ディグニファイド・デス)などと表記されることになりますが、
英語で、deathは「死」を、dignityは「威厳や尊厳、尊さ」を意味する単語なので、
Death with DignityやDignity in Dyingといった言葉は、そのまま直訳すると、「尊厳ある死」や「死の尊厳」といった意味を表す言葉ということになります。
それでは、次に、
こうした安楽死や尊厳死といった死のあり方が現代において広く議論されるようになった起源はどこにあるのか?ということですが、
安楽死や尊厳死という言葉が一般的なものとして世界に広まったのは、1930年代から1950年代にかけてのイギリスやアメリカを中心とする欧米諸国であったと考えられることになります。
19世紀に入り、モルヒネなどの強い鎮痛作用を持った麻酔薬が開発されていくようになると、末期の病気に苦しむ重病人に対する麻酔薬の副作用を無視した大量投与の是非や、自殺の権利などをめぐってアメリカやイギリスなどで安楽死をめぐる議論が徐々に注目を集めるようになっていきます。
そして、特に、
1935年、イギリスの医師であったキリック・ミラード(Killick Millard)が自主的安楽死合法化協会(The Voluntary Euthanasia Legalisation Society)と呼ばれる安楽死の合法化を推進する団体を設立したのをきっかけとして、
「苦痛に満ちた緩慢な死を、苦痛の無い速やかな死へと置き換える」ことを標榜する運動がイギリスやアメリカを中心とする欧米諸国で展開されていくことになります。
20世紀前半にキリック・ミラードが設立した自主的安楽死合法化協会は、2005年に死の尊厳(Dignity in Dying)という名称へと組織名をを変更したうえで、現在でも全国的なキャンペーン活を展開していますが、
こうした20世紀におけるイギリスやアメリカを中心とする欧米諸国での議論の広がりを経たうえで、それが現在へと通じる安楽死と尊厳死の容認をめぐる賛成と反対の議論へとつながっていったと考えられることになるのです。
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次回記事:積極的安楽死と消極的安楽死の違いとは?安楽死と尊厳死の違いとは?②
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