ウイルスは生物か無生物か?乳酸菌が生物でウイルスが無生物である理由、生命とは何か?⑦

ウイルスは生物なのか?それとも無生物なのか?という問いに適切に答えるためには、

 まずは、生物の定義とは何であるのか?という問題について明確な答えを出しておくことが必要となります。

そして、そのうえで、

ウイルスがそうした生物の定義となる要件をすべて満たしているならばそれは生物に分類されることになり、

反対に、それが生物の定義を満たさないものであるとするならば、それは無生物に分類されると考えられることになるのです。

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乳酸菌が生物である理由とは?生物の四つの定義の満たし方

まずはじめに、生物の定義についてですが、

このシリーズの初回である生物の四つの定義とは何か?クモとイチョウの木のたとえで書いたように、

生物を生物たらしめている要素とはいったい何なのか?という問いについて考えていくとき、一般的には、

自己と外界との境界」「エネルギーと物質の代謝」「自己複製」「恒常性

という生物の四つの定義へと行き着くと考えられることになります。

これは、より具体的な例で言うと、どういうことになるのか?ということですが、

例えば、

ヨーグルトやぬか漬けなどの食品の発酵に寄与する乳酸菌は生物であるか?という問いについて考えてみるとします。

すると、まず、

原核生物の内の細菌類に属する乳酸菌には、自分自身と外界とを隔てる細胞膜があるので、「自己と外界との境界」は持っていると考えられることになります。

そして、次の「エネルギーと物質の代謝」についてですが、

乳酸菌は、自らの体内に取り入れたブドウ糖などの糖類を乳酸へと変化させ、その代謝の過程で自らの生存に必要なエネルギーを生産しているので、

乳酸菌は、生物の第二の定義である「エネルギーと物質の代謝」を行う機能も持っているということになります。

代謝とは、生物学においては、外部から栄養素を取り入れたうえで、そこから自らの生存に必要なエネルギーを生み出し、新たな細胞を作り出すために必要な物質を合成するという物質的な新陳代謝エネルギー生産のことを意味します。

次の要件である「自己複製」については、

乳酸菌は、細胞膜の内側にある細胞質の内部に、自らの遺伝情報を記録した遺伝物質であるDNAデオキシリボ核酸)を持っていて、

そのDNAを設計図として細胞分裂を行い、自分自身と同じ構造と遺伝情報を持った個体を自己複製することができるので、

乳酸菌は、生物の第三の定義である「自己複製」の要件も満たしているということになります。

そして最後に、生物の第四の定義である恒常性ホメオスタシスとは、一言で言うと、自分自身の生存を維持するために内部環境を一定の状態に保とうとする生体機能のことを意味する概念ですが、

乳酸菌は、一般的な細菌と同様に、温度や栄養条件に応じて細胞分裂などの速度をコントロールすることができるほか、乳酸の生成によって周囲の環境を酸性に変え、競合する他の種類の細菌の増殖を抑制することで、自らの生存の維持を図る働きもあるので、

乳酸菌は「恒常性ホメオスタシス)」という最後の要件も満たしていると考えられることになります。

以上のような考察から、

乳酸菌は、「自己と外界との境界」「エネルギーと物質の代謝」「自己複製」「恒常性」という生物の四つの定義を満たす存在であると言えるので、

それは、単なる物質や無機物ではなく、れっきとした生物であるとみなされることになるのです。

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ウイルスは生物か無生物か?生物の要素を半分だけ持つ存在

それでは、これに対して、

ウイルスは、上記の生物の四つの定義を満たすことができているのか?ということですが、

まず、

ウイルスは、乳酸菌のような細胞膜は持っていないものの、自分自身をカプシドcapsid) と呼ばれるタンパク質でできた殻によって覆っているので、

そうしたタンパク質の殻を境界とした「自己と外界との境界は持っているとみなせることになります。

また、「自己複製」についても、

ウイルスの内部にはRNAリボ核酸)などの遺伝物質が存在し、宿主となる細胞に侵入することによって、その遺伝物質に基づいて自分自身の複製を作り出すことが可能となるので、

ウイルスには「自己複製の機能もあると考えられることになります。

それでは、「エネルギーと物質の代謝」についてはどうか?というと、

先ほど書いたように、ウイルスの活動は宿主となる細胞に侵入することによって営まれ、自分自身では運動することもできなければ、自らの活動に必要なエネルギーを自前で生産することもできないので、

ウイルスには「エネルギーと物質の代謝を行う機能は存在しないということになります。

また、「恒常性」についても、

ウイルスは、自分自身の構造を維持しようとするための活動の調整や自己防衛といった能動的な機能はまったく持っていないので、そこには「恒常性」は一切存在しないと考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

ウイルスは、生物の一般的な定義のうち、

自己と外界との境界」と「自己複製」という二つの要素は満たすのに対して、

エネルギーと物質の代謝」と「恒常性」という残りの二つの要素を満たすことができないという点において、

ウイルスは、生物と無生物の中間に位置する存在であると捉えられることになります。

そして、こうした生物と無生物のどちらでもありつつ、どちらでもないといった中途半端な分類を認めずに、

すべての存在は生物か無生物かのどちらかに必ず分類されるべきであると考えるとするならば、

冒頭で述べたような生物の厳密な定義、すなわち、生物とは上記の四つの要件のすべてを満たすものであるとする定義に基づくと、

ウイルスは、どちらかと言えば、無生物の方に分類する方が適切であると考えられることになるのです。

・・・

このシリーズの次回記事ウイルスが生物であるか否か?という問いから生命の根本原理への問いの架け橋、生命とは何か?⑧

次回記事DNAとRNAの違いとは?①デオキシリボ核酸という言葉の由来と両者の物理的構造の違い

前回記事:恒常性(ホメオスタシス)とは何か?生物の内部環境を一定の状態に維持する自発的で能動的な活動、生命とは何か?⑥

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