表意文字(イデオグラム)と表音文字(フォノグラム)の語源とは?イデアとフォニーの二つの側面
一般的な文字の分類では、文字の種類は、
漢字や象形文字などの表意文字と
ローマ字やギリシア文字などのアルファベットに代表される表音文字の
二つの系統に大別されることが多いですが、
表意文字は英語では”ideogram“(イデオグラム)と表記され、
表音文字は”phonogram“(フォノグラム)と表記されます。
今回は、
こうした二つの文字分類の言葉の語源がどこにあり、
それぞれの言葉は、本質的にどのようなな意味を持つ言葉なのか?
ということについて考えてみたいと思います。
イデア、概念、イメージを表す表意文字
表意文字とは、その日本語表記が示す通り、
一つ一つの文字が一定の意味を表す文字ということになりますが、
その英語表記である”ideogram“(イデオグラム)の語源まで
少し掘り下げて考えてみると以下のようになります。
“ideogram“とは、
ギリシア語の”idea“(イデア、ギリシア文字ではιδέα)と”gram“(書かれたもの)が結合してできた言葉です。
そして、
idea(イデア)とは、
古代ギリシア哲学では、プラトンのイデア論のように、
すべての存在の原型となる真なる実在である観念
といった意味にまで高められることになりますが、
ギリシア語のidea(イデア)は、
英語では同じ綴りのidea(アイディア)に対応するように、
ここでは、ひとまず、
概念や観念、イメージといった意味として
捉えておけばいいと考えられます。
つまり、
表意文字(ideogram)は、
その元々の語源までたどると、
一つ一つの文字が概念やイメージを表す文字
という意味になるということです。
フォニー、音声を表す表音文字
一方、
表音文字の方は、日本語表記での意味は、
一つ一つの文字が一定の音を表す文字ということになりますが、
その英語表記である”phonogram“(フォノグラム)を
語源にまで分解すると、
“phonogram“は、
ギリシア語から来た”phony“(フォニー、ギリシア文字ではφωνήで発音はフォネー)と”gram“(書かれたもの)が結合してできた言葉ということになります。
phony(フォニー)とは、
声や音のことを意味する接尾辞で、
例えば、
“sym“(共に、同時に)+”phony“で”symphony“(シンフォニー、交響曲)
“tele“(遠い)+”phony“で”telephony“(テレフォニー、電話通信)
といった言葉が出来上がります。
つまり、
表音文字(phonogram)は、
一つ一つの文字が直接、具体的な概念やイメージを表すのではなく、
音声のみを表す文字という意味になるということです。
・・・
以上のように、
表意文字と表音文字という概念は、
その英語表記やギリシア語の語源までさかのぼると、
それぞれ、
表意文字(ideogram、イデオグラム)は、
一つ一つの文字が概念やイメージを表す文字
表音文字(phonogram、フォノグラム)は、
一つ一つの文字が意味をもたず、音声のみを表す文字
という本質的な意味へと行き着くことになります。
しかし、
すべての文字を表意文字か表音文字のいずれかの分類へと
大別することができるということは、
逆に言うと、
文字という存在自体が、常に、
“idea“(イデア)すなわち概念と、
“phony“(フォニー)すなわち音声という
二つの側面を併せ持つ形で存在しているということを
意味することにもなります。
つまり、
漢字やローマ字といった特定の文字が
表意文字と表音文字のいずれの種類に分類できるのか?
という問題は、
その文字体系に含まれる文字が直接的に指し示す内容が
概念と音声のどちらにより重点が置かれているのか?
といった相対的な基準を示しているに過ぎず、
それは、あらゆる文字をどちらか一方へと分類しきり、
片方の分類の性質のみで捉え尽くせるような
絶対的な基準ではないと考えられることになるのです。
別な言い方をするならば、
100%表意的である文字も、100%表音的である文字も
存在しないのであり、
大枠のくくりとしては表意文字に分類される文字にも
表音的な側面があったり、
反対に、
表音文字にも表意的な使われ方が存在すると考えられる
ということでもあります。
そこで次回は、
そうした表意文字の表音的な使われ方と、
表音文字の表意的な使われ方のそれぞれについて、
具体的な事例も示しながら詳しく考えていきたいと思います。
・・・
このシリーズの次回記事:表音的な表意文字と表意的な表音文字とは?仮借と借字とアルファとオメガ
「言語学」のカテゴリーへ