フランケンシュタインの原型となるギリシア神話の二つの物語とは?①プロメテウスによる人類の創造と人造人間の怪物との関係
つぎはぎの死体から造り出された醜悪な姿をした人造人間の怪物として有名なフランケンシュタインの怪物のイメージは、
もともと、19世紀のイギリスの女流作家であったメアリー・シェリーによって書かれた『フランケンシュタイン』という題名で知られる小説が原作となることによって形づくられていくことになっていったと考えられることになるのですが、
この小説の原題が、正確には、『フランケンシュタインあるいは現代のプロメテウス』(Frankenstein; or, The Modern Prometheus)という題名になっているように、
こうしたフランケンシュタインの怪物の話の大本の原型となった古代の神話や物語としては、まずは、ギリシア神話のなかに登場する英雄神の一人であるプロメテウスの物語が挙げられることになります。
人類の創造主としての英雄神プロメテウスと人間に与えられた炎の光
プロメテウスは、もともと、太古の時代に、ゼウスを盟主とするオリュンポスの神々と天界の覇権をめぐって戦って敗れたとされているティターン神族と呼ばれる古代の巨神族の一柱としても数え上げられる神だったのですが、
こした古代の巨神族の一人でもあったプロメテウスは、ギリシア神話においては、水と土から人間を造り上げたとも言われている人類の創造神にあたる神の一人としても位置づけられることになります。
そして、
こうした人類の創造主にして人間の擁護者でもあったプロメテウスは、ある時、寒さに凍え、猛獣たちの脅威にさらされて怯える人間たちのために天界から火を盗み、それを地上へと持ってきて人間に与えることによって、人類の手に炎の光をもたらすことになるのですが、
その後、プロメテウスは、
地上の世界に禁じられていた火の力をもたらした罰として、山の頂で磔の刑(はりつけのけい)へと処されたうえで、
毎朝、天空から降りてくる鷲(わし)にわき腹から肝臓を食い尽くされていったのち、夜になると一晩のうちに体がすべて元通りに戻ってしまい、
次の日には前日とまったく同じ苦痛を再び味わっていくことになるという永遠の責め苦を与え続けられていくことになるのです。
フランケンシュタインによる人造人間の怪物の創造とプロメテウスによる人類の創造の関係
そして、
こうした古代ギリシア神話における人類の創造主ともされるプロメテウスの物語に対して、フランケンシュタインの怪物の原作となったイギリスの小説の中では、
この醜悪な姿をした人造人間の怪物は、錬金術と自然科学に精通した科学青年であったヴィクター・フランケンシュタインの手によって、継ぎ合わせた死体から造り出されることになるのですが、
つまり、そういった意味では、
こうしたフランケンシュタインによる死体からの人造人間の創造は、ギリシア神話のプロメテウスの物語における水と土からの人間の創造の物語を一つの原型とする形で描かれているとも考えられることになるのです。
ちなみに、
こうした原作の小説におけるフランケンシュタインの怪物の物語の最後の場面においては、
自らの創造主であるヴィクター・フランケンシュタインの死を嘆きながら、自分の醜い姿と呪われた運命に絶望して自らの身を炎で焼いて命を絶つために北極点へと赴いていくことになる怪物の姿が描かれていくことになるのですが、
こうした炎に焼かれて死んでいくというフランケンシュタインの怪物の姿は、ギリシア神話において人類に炎の光をもたらした神であるプロメテウスのことを少しばかり連想させるものになっているとも捉えていくことができると考えられることになります。
そして、そういった意味では、
こうした自らの生命に絶望して炎に焼かれて死んでいくというフランケンシュタインの怪物の姿は、
プロメテウスによって炎の光を与えられながら、自らの存在に絶望してその力を誤った方向へと用いていってしまうことによって自分たち自身の身を滅ぼしていくという人類自身の姿をも暗示しているとも解釈していくことができると考えられることになるのです。
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