一つの船から二つの船ができる派生的なテーセウスの船の問題における二重の同一性の問題
前々回 と 前回の記事で書いたように、テーセウスの船と呼ばれる哲学的な問題は、一般的には、
「ある船を構成しているすべての部品が新しい部品へと交換されてしまった後でも、その船は元の船と同じ船であると言えるか?」
という命題の形として提示されることになりますが、
こうしたテーセウスの船と呼ばれる哲学的な問題の議論の立て方には、その他にも、いくつか別のパターンもあって、
そうした派生的なテーセウスの船の議論においては、
「テーセウスが乗っていた元の船から新たに二つの船を組み上げた場合、いったいどちらの船が元の船と同じ船であると言えるか?」
といった形で命題が提示されることになり、
こうした派生的なテーセウスの船の問題においては、一つの事物から派生した二つの事物における二重の同一性が問題となっていくと考えられることになります。
元の一つの船から二つの船ができる派生的な二つのパターンのテーセウスの船の問題
そうすると、まず、
こうした一つの事物から派生した二つの事物における二重の同一性が問題となる派生的なテーセウスの船の議論は、大きく分けて、以下のような二つの命題の形で議論が提示されていくことになると考えられることになります。
「テーセウスが自分の船の部品を少しずつ新しい部品へと交換していって、すべての部品を新しい部品へと交換した後で、元の船から取り外したすべての部品を使って新たにもう一つの船をつくり上げ場合、どちらの船が元のテーセウスの船と言えるのか?」
「テーセウスが自分の船の部品を少しずつ新しい部品へと交換していって、すべての部品の半分まで交換した時に、それまでに元の船から取り外した部品と残り半分の新しい部品を使って新たにもう一つの船をつくり上げ場合、どちらの船が元のテーセウスの船と言えるのか?」
すべての部品を交換した船と元の船の部品で造られた新しい船
そして、このうち、
前者の命題の場合には、前回の記事で書いたように、一つの事物における部分と全体そして同一性の差異といった観点から説明していくと比較的分かりやすく説明していくことができると考えられることになります。
この命題において、
前者のすべての部品を新しい部品へと交換した船というのは、船を構成している個々の部品や素材を問題とする部分的な観点においては同一性が0%、船全体の構造を問題とする全体的な観点においては同一性が100%ということになり、
そうした元の船と比べて船全体の構造がまったく同じで、船を構成している個々の部品がまったく異なる船というのは、
結局、同じ設計図を使って新しい部品でつくり上げられた本物のテーセウスの船のレプリカ、すなわち、単なる複製品に過ぎないため、それは、元のテーセウスの船とは異なる船として捉えることができると考えられることになります。
そして、それに対して、
後者の元の船から取り外したすべての部品を使って新たに造られたもう一つの船というのは、それが元の船と同じ形をしているとした場合、船を構成している個々の部品や素材を問題とする部分的な観点においては同一性が100%、船全体の構造を問題とする全体的な観点においても同一性が100%ということになるため、
それは、元の船を一度分解してからそのまま元通りに組み上げた船と同じで、元のテーセウスの船とまったく同じ船として捉えることができると考えられることになるのです。
元の船に由来する半分ずつの部品でできた二つの船の同一性の問題
そして、それに対して、
後者の命題の場合には、もう少し問題が複雑になってくると考えられ、すべての部品の半分まで交換した船と、それまでに元の船から取り外した部品と残り半分の新しい部品を使って新たに造られたもう一つの船というのは、
結局、両方とも、元の船に由来する半分ずつの部品によって組み上げられた船にあたり、それは、構成している個々の部品や素材を問題とする部分的な観点においては同一性が50%、船全体の構造を問題とする全体的な観点においては同一性が100%ということになります。
つまり、この命題において、
前者のすべての部品の半分まで交換した船と、後者の元の船から取り外した部品と残り半分の新しい部品を使って造られた船というのは、
そうした部分と全体そして同一性の差異といった観点において、元の船と比べて互いに等しい同一性を持つ船として捉えられることになると考えられることになるわけですが、
そういった意味では、この命題においては、
元の一つの船から組み上げられることになった二つの船は、元の船と比べてどちらも同じ分だけ同一であり、同じ分だけ異なっている船、
より分かりやすく言えば、
どちらの船も50%ずつの同一性を持つ船として解釈していくことができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:テーセウスの船と人間の同一性との関係と身体を構成する個々の細胞を基準とした肉体的な面における自己の同一性の解釈
前回記事:テーセウスの船の哲学的な解釈②部分と全体そして同一性の差異という観点に基づくテーセウスの船の解釈
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