マオリ族の死生観とは?マオリ神話に基づく霊的な生命に満ちた根源的な世界への回帰としての死と人類の原罪に基づく死の解釈
前回の記事で書いたように、マオリ神話における天地創造の物語においては、原初の宇宙における暗闇の世界から現在の地上の世界へと通じる生命と光の世界が生まれていく過程が語られていくと共に、
そうした生命と光の世界のうちに、暗闇の世界へと通じる死が生まれていくことになるというこの世界における死の起源となる物語についても語られていると考えられることになるのですが、
そうしたマオリ神話における天地創造と死の起源についての物語からは、そうした神話に基づくマオリ族の死生観や深い精神性についても読み解いていくことができると考えられることになります。
マオリ神話における神が犯した罪と人類の原罪に基づく死の解釈
そうすると、まず、詳しくは前回の記事で書いたように、
マオリ族の神話における天地創造の物語のなかでは、
森と生命の神であるターネは、自分の娘であるヒネ・ティタマのことを騙して自分の素性を隠したまま彼女と結婚してしまうことになり、
のちに、自らの出生の真実を知ることによって自分のことを騙していたターネのことを深く憎んだヒネ・ティタマが、
テ・ポー(Te Pō)と呼ばれる暗闇の世界へと落ちて、ヒネ・ヌイ・テ・ポー(Hine-nui-te-pō)と名を変えていくことによって夜と死を司る女神となり、
二人の間に生まれた呪われた子孫たちを生命と光が閉ざされた闇の世界のうちへと引き込んでいくようになることによってこの世界のうちに死が生まれることになったと語られていくことになります。
つまり、そういった意味では、
こうしたマオリ神話において語られている死の起源となる物語においては、
森と生命の神であるターネと、その実の娘にあたる女神ヒネ・ティタマの許されざる結婚という人類がその誕生の時から負わされることになった原罪とも呼ぶことができるような罪の概念に基づいて、
本来は光と生命に満ちた世界であるはずの現実における地上の世界のうちに、その対極にあたる暗闇と死が訪れていくことになるという死の解釈が行われていると考えられることになるのです。
マオリ族の死生観における霊的な生命に満たされた根源的な世界への回帰としての死の位置づけ
しかし、その一方で、詳しくはマオリ神話における光と闇との関係について考察した以前の記事でも書いたように、
こうした夜と死の女神となったヒネ・ヌイ・テ・ポーの働きによって人々の魂が引き込まれていくことになる暗闇の世界というのは、必ずしもそうした死や悪といった負のイメージとしてだけ捉えられる存在というわけではなく、
マオリ神話の世界観においては、
そうした原初の宇宙が存在していた太古の時代から存在していたとされるテ・ポー(Te Pō)あるいはテ・コレコレ(Te Korekore)と呼ばれる暗闇の世界は、
地上の世界に存在するあらゆる事物が物理的な存在へと形づくられていく前の不定形な状態にあるあらゆる形象の根源となる世界としても位置づけられていくことになります。
つまり、そういった意味では、
こうしたマオリ神話における死と暗闇の世界は、
目に見える物理的な世界としての光の世界の背後に存在していると考えられる潜在的な力を持った霊的な存在によって満たされている神秘的で霊的な世界としても位置づけられていくことになると考えられることになるのです。
・・・
そして、以上のように、
こうしたマオリ神話における天地創造の物語のなかで示されているマオリ族の死生観のあり方に基づくと、
死とは、生命に満ちた光の世界から、夜の女神が司る暗闇の世界へと人々の魂が引き去られていくことを意味することになる一方で、
そうした死を通して人々の魂が引き去られていくことになる暗闇の世界というのは、決して、何も存在しない空っぽの虚無や、善なる光に対立する悪しき世界のことを意味しているわけではなく、
それは、地上の世界におけるあらゆる形象の源となる霊的な生命に満たされた根源的な世界としても捉えられていると考えられることになります。
そして、
そうした霊的な生命に満たされた根源的な世界としての暗闇の世界を司る夜と死の女神であるヒネ・ヌイ・テ・ポーは、
地上の世界における人間の生命の生みの親にあたる母なる神としても位置づけられていくことになるわけですが、
そういった意味では、
こうした神話的理解に基づくマオリ族の死生観においては、
死とは、人々の魂が生命に満ちた光の世界から暗闇の世界へと引き去られていくことを意味すると同時に、その魂が自らの母のもとへと還っていくことを意味することになり、
そうした光に満ちた地上の世界における生を終えた魂たちが向かうことになる暗闇の世界とは、霊的な生命に満たされた根源的な世界として位置づけられることになると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:南十字星および南十字座の星の名前と由来とは?南天の指極星としてのアクルックスとガクルックスという青と赤の二つの星
前回記事:マオリ神話における死の起源とは?夜明けの女神と死の女神としての二面性を持つヒネ・ヌイ・テ・ポーの誕生と変身
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