雄花と雌花あるいは雄しべと雌しべとの間に成立する生命の弁証法的展開、ヘーゲル哲学における生命の弁証法的展開の構造①
このシリーズの前回の記事で書いたように、ヘーゲルの主著の一つである『精神現象学』において示されている植物を例とした生命の弁証法的展開のあり方は、
蕾から花へ、そして、花から実へと至る二段階の弁証法的発展の構造として捉えることができると考えられることになります。
そして、
そうした植物の生命における弁証法的展開の過程についてより詳しく見ていくと、
そこには、一つの蕾や一つの花の内で成立する概念的な生と死としての対立だけではなく、
雄花と雌花、あるいは、雄しべと雌しべといった有性生殖に関わる生命の営みの内にもそうした植物の生命の弁証法的展開の構造を見いだすことができると考えられることになります。
単性花の雌花と雄花との間に成立する生命の弁証法的展開
『精神現象学』の冒頭部分において示されている蕾と花と実の三者の間に成立する植物の生命における弁証法的発展のあり方を、蕾から花、そして、花から実へと至る二段階にわたる二つのアウフヘーベンを通じた弁証法的展開の構造として捉える視点に立った場合、
こうした二段階の弁証法的展開の構造のうちの後半部分にあたる花の段階から実が形成されていくまでの植物における生命の弁証法的な発展の過程は、より具体的にはどのような形で展開されていくことになるのか?ということについて考えてみることにします。
すると、例えば、
イチョウなどの雌雄異株(しゆういしゅ)の単性花をつける植物の場合には、
雌花と雄花が別々に形成されて、両者の間で受粉が行われるという二つの花のアウフヘーベンによって、種子ができて実が結実するという一連の過程が進んで行くと捉えることができると考えられることになります。
つまり、単性花をつける植物の場合、
「雌花」をテーゼ、それに対する「雄花」をアンチテーゼとしたうえで、両者の存在の間の対立がアウフヘーベンされることよってジンテーゼとしての「実」が生じるという形で、
花から実が形成されるまでの植物の生命の弁証法的展開の構造を捉えることができると考えられることになるのです。
両性花の雌しべと雄しべとの間に成立する生命の弁証法的展開
そして、それに対して、
桜やアブラナなどの一つの花の内に雄しべと雌しべの両方を有する両性花をつける通常の被子植物の場合も、
こうした受粉から種子の形成と実の結実までの過程は、同一個体における雌しべと雄しべの成熟に至るまでの速度に時間差をつけることなどによって、基本的には、異なる個体の花同士の間で進むことになる一方で、
そうした受粉から結実までの過程が同じ一つの花の内で完結してしまうこともないわけではないので、話はより複雑となりますが、
いずれにせよ、こうした両性花の場合においても、
雌しべと雄しべという二つの異なる性質を持った存在の対立の間から、その植物の種族における新たな個体としての種子を自らの内に宿した実が結実するという植物における生命の弁証法的発展の構造は、
上記の単性花の植物の場合と同様に維持されていると考えられることになります。
つまり、両性花をつける植物の場合には、
「雌しべ」をテーゼ、それに対する「雄しべ」をアンチテーゼとしたうえで、両者の存在の間の対立がアウフヘーベンされることよってジンテーゼとしての「実」が生じるという形で、
花から実が形成されるまでの植物の生命の弁証法的展開の構造を捉えることができると考えられるということです。
・・・
以上のように、
『精神現象学』において示されている植物を例とした生命の弁証法的展開のあり方は、より具体的な形としては、
単性花における雌花と雄花や、両性花における雌しべと雄しべとの間に成立する生命の弁証法的発展の過程の内にも見いだすことができると考えられることになります。
つまり、
蕾から花、そして、花から実へと進展する植物の生命の弁証法的展開のなかでも、
種族の生命を受け継ぐ次世代の新たな個体を生み出すより重要な過程である後半の花から実へと至る生命の弁証法的展開の過程においては、
テーゼとなる雌花に対して、アンチテーゼとなる雄花の存在が主張され、両者の間の生物学的な対立がアウフヘーベンされることよってジンテーゼとしての「実」が生じると同時に、
雄花と雌花のそれぞれの個体においては、自らの花としての姿形を失うと同時に、実という新たな段階において生きるという花の生における概念的な生と死の対立がアウフヘーベンされるという
二重のアウフヘーベンの構造において、生命の弁証法的展開が進んで行くことになると考えられることになるのです。
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次回記事:女性・男性・子供の三者の間に成立する人間の生命の弁証法的発展の構造、ヘーゲル哲学における生命の弁証法的展開の構造②
このシリーズの前回記事:蕾から花、花から実へと展開する二段階の弁証法的発展の構造、『精神現象学』における蕾と花と実の弁証法の二通りの解釈②
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