「天上の序曲」における神と悪魔メフィストフェレスの問答①神の言葉による悪魔の定義、『ファウスト』の和訳④

前回の記事では、悪魔メフィストフェレスがファウストの前にはじめてその姿を現す場面で自分について語っている「常に悪を望み常に善を成す力の一部であり」「常に否定し続ける霊」であるという言葉の具体的な意味について考えましたが、

今回は、上記のメフィストフェレス登場の場面から、さらにその先の『ファウスト』の中で最も印象的なシーンとも言える主人公ファウストと悪魔メフィストフェレスが魂の契約を結ぶ場面へと進む前に、

前回取り上げた「否定する霊」という言葉がはじめに現れる箇所である「天上の序曲」と題される『ファウスト』の序章における神と悪魔メフィストフェレスの間の問答の場面について改めて取り上げておきたいと思います。

天上の序曲」において、メフィストフェレスがファウストを悪の道へと誘惑しようとすることをめぐって交わされる神と悪魔メフィストフェレスの問答においては、

人間の善性をめぐる論争と、神の言葉による悪魔の定義という二つの形而上学的な内容が語られることになります。

そして、前回取り上げた「否定する霊たちGeistern die verneinen)」という言葉は、悪魔を定義づける神の発言の内で語られることになるので、

物語の中の記述の順番としては、順序が逆になってしまうのですが、今回は、先に、後者の神の言葉による悪魔の定義が行われる箇所について取り上げてみたいと思います。

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「天上の序曲」における神の言葉による悪魔の定義のドイツ語原文

ゲーテファウスト』の「天上の序曲」の章において、

が対話相手である悪魔メフィストフェレスに対する自らの評価を下し、メフィストフェレスとその仲間たちの本質が具体的にどのようなところにあるのか?という悪魔の定義づけを行う場面における神の言葉は、ドイツ語の原文では以下のように記されています。

Der Herr:

Du darfst auch da nur frei erscheinen;
Ich habe deinesgleichen nie gehaßt.
Von allen Geistern, die verneinen,
Ist mir der Schalk am wenigsten zur Last.
Des Menschen Tätigkeit kann allzu leicht erschlaffen,
Er liebt sich bald die unbedingte Ruh;
Drum geb ich gern ihm den Gesellen zu,
Der reizt und wirkt und muß als Teufel schaffen.

神の言葉による悪魔の定義のドイツ語文と日本語文の対訳

そして、次に、上記のドイツ語原文を、発音とアクセントの目安を併記したうえで、ドイツ語原文と日本語との対訳形式で一行ずつ訳していくと以下のようになります。

ただし、ドイツ語文で強調して読まれるアクセントの目安については、ドイツ語文の下に記した発音を示すカタカナ表記を太字で記すことによって示すこととし、

日本語の訳文を書いた後の印の部分でところどころ簡単な文法上の注釈を付記している箇所があります。

また、ドイツ語文と日本語文との対訳関係がより分かりやすくなるように、日本語文の訳文において重要な意味を担う箇所を太字で記したうえで、それに対応するドイツ語文の箇所も太字にする形で記しています。

・・・

Der Herr(デア・ル、):

Herr紳士支配者主人

Du darfst auch da nur frei erscheinen;
ドゥー・ルフストゥ・オホ・ー・ア・フイ・エアシャイネン)
ならばお前は、ただ自分が思うがままに自由に振る舞うがよい

darfstは「~してもよい」という容認を表す助動詞dürfenの二人称単数現在形。

Ich habe deinesgleichen nie gehaßt.
ッヒ・ーベ・イネスライヒェン・ー・ゲストゥ)
わたしはお前のような者たちに対して憎しみを抱いたことなどただの一度もないのだから。

gehaßtは「憎む」を意味する動詞haseen過去分詞形

Von allen Geistern, die verneinen,
フォン・レン・イスターン・ディー・フェアイネン)
およそ否定の力を領分とするすべての霊たちの中で、

Ist mir der Schalk am wenigsten zur Last.
ストゥ・ーア・ア・シャルク・アム・ヴェニヒステン・ツア・ストゥ)
最もわたしの心を煩わすことがないのは、お前のような悪戯好きの者なのだ。

am wenigstenは「少ない」を意味する形容詞wenigの最上級wenigst副詞化した形で「最も少なく」という意味を表す。

Des Menschen Tätigkeit kann allzu leicht erschlaffen,
ス・ンシェン・ーティヒカイトゥ・ン・ルツー・イヒトゥ・エアシュッフェン)
人間の活動というものは、とかく緩慢なものになりがちで、

Er liebt sich bald die unbedingte Ruh;
ア・ープトゥ・ルトゥ・ディー・ンベティングテ・ー)
人はすぐに怠惰へと陥るものだ

die unbedingte Ruhは直訳では「無条件の休息」「絶対的な休息」といった意味になる。

Drum geb ich gern ihm den Gesellen zu,
ルム・ープ・ッヒ・ルン・ーム・デン・ゲレン・ー)
それゆえ、わたしは人間に対して彼の道連れとなる者をつけてやるのだが、

Der reizt und wirkt und muß als Teufel schaffen.
ア・イツトゥ・ウントゥ・ヴィルクトゥ・ウントゥ・ス・ルス・イフェル・シャッフェン)
その道連れとなる者は、人間を刺激し、彼に影響を与え、さらには悪魔としての業を成し遂げなければならないのだ。

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「天上の序曲」における神の言葉による悪魔の定義の全文和訳

そして最後に、上記のドイツ語文と日本語文の対訳の中から、和訳の部分だけを抜き出して、改めて該当箇所の全文和訳を記す形でまとめ直すと以下のようになります。

・・・

(対話相手である悪魔メフィストフェレスに対して):

ならばお前は、ただ自分が思うがままに自由に振る舞うがよい
わたしはお前のような者たちに対して憎しみを抱いたことなどただの一度もないのだから。

およそ否定の力を領分とするすべての霊たちの中で、
最もわたしの心を煩わすことがないのは、
おまえのような悪戯好きの者なのだ。

人間の活動というものは、とかく緩慢なものになりがちで、
人はすぐに怠惰へと陥ってしまう

それゆえ、わたしは人間に対して彼の道連れとなる者をつけてやるのだが、
その道連れとなる者は、人間を刺激し、彼に影響を与え
さらには悪魔としての業を成し遂げなければならないのだ。

・・・

次回記事:神と悪魔メフィストフェレスの問答②人間の善性をめぐる神と悪魔の論争、『ファウスト』の和訳⑤

前回記事:常に悪を望み常に善を成す」という悪魔メフィストフェレスの言葉の真意とは?『ファウスト』の和訳と解釈③

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