172番か173番の元素が理論上存在しうる最後の元素とされる理由とは?②電子と陽電子の対生成による説明
前回書いたように、
物質を構成する基本単位としての元素の種類数が
せいぜい百数十種類という有限の数に限られる理由については、
原子番号の数が増え、原子核の内に含まれる陽子の数が増加していくことによって
陽子同士のプラスの電荷の反発力が強まり、原子核の不安定性が増していくことで
元素の寿命が限りなくゼロへと近づいていくことが
その説明の一つとして挙げられることになります。
しかし、
原子の寿命は陽子数の増加に従って連続的に減少していくものであって、
いきなりどこかの原子番号の地点でぴったりゼロになってしまうわけではないので、
理論上存在しうる最後の元素が172番か173番であり、
174番以上の原子番号の元素が存在しえないことについては、
さらに別のより明確な理由が求められることになります。
そして、そのためには、
前回も少し取り上げた、原子同士を衝突させることによって
人工的に新たな超重元素(原子番号92のウランよりも重い重質量元素)を合成する
衝突核融合の仕組みについてさらに詳しく考えておくことが必要となります。
衝突核融合によるウンウントリウム(ニホニウム)の生成
自然界に存在しない超重元素を新たに生成だせるためには、
その元素よりも質量の小さい二つの原子が核融合することが必要になりますが、
原子の核融合には莫大なエネルギーが必要となるため、
新たな超重元素を合成するためには、
材料となる原子の一方を超高速になるまで加速し、
その運動エネルギーをもう一つの原子に激しくぶつけることが
必要となります。
そして、
このように二つの原子を激しく衝突させることによって、
非常に低確率ではありますが衝突核融合が生じ、
新たな超重元素が合成されることになるのです。
例えば、
2015年末にIUPAC(国際純正・応用化学連合)から
日本の理化学研究所の研究グループに対して新元素の命名権が与えられ、
2016年6月に新たな元素の名称案がニホニウム(Nh)となり、
それが新元素の正式名称として決定する見通しとなりました。
今まで系統名としてウンウントリウム(Uut)と呼ばれてきた
113番目の元素についても上記のような衝突核融合の方法によって
元素合成が行われています。
2004年に理化学研究所が行ったその実験では、
まず、
線形加速器を用いて原子番号30番の亜鉛(Zn)を
光速の10%にまでおよぶ超高速状態にまで加速し、
その莫大な運動エネルギーを持った亜鉛原子を
原子番号83番のビスマス(Bi)に衝突させることによって
核融合に必要なエネルギーを確保し、
衝突核融合によって原子番号113番のウンウントリウム(Uut)を合成することに
成功しています。
つまり、
核融合に必要な膨大なエネルギーが外部から供給された上で、
原子番号30の亜鉛(Zn)と原子番号83のビスマス(Bi)が
ガラガラポンと合わさることによって、
原子番号113のウンウントリウム(Uut)という超重元素が
新たに生成されたということです。
そして、
こうした衝突核融合による超重元素の生成においては、
原子核を構成する陽子や中性子などの粒子自体は
材料となるもとの二つの原子から供給されますが、
それらの構成粒子が一つの元素としてまとまるためには、
新たな元素構造の内に莫大なエネルギーが留め置かれることになるので、
新たに生成することになる元素の構造が
その莫大なエネルギーに耐えることができるのか?
ということがその元素生成の成否を分ける
重要な要素となると考えられるのです。
174番以降の元素生成における電子と陽電子の対生成の問題
新たに生成しようとする元素の元素番号が増えていき、
一つの元素としてまとまる粒子の数がどんどん増えていくにしたがって、
それらの粒子が一つにまとまるために必要なエネルギーは
膨大な大きさとなっていきます。
そして、
新たに生成される元素に含まれる陽子数と電子数の増大と元素の質量の増大に伴って
電子と原子核との間に働く結合エネルギーも非常に大きくなっていき、
それは、ちょうど原子番号173番目の原子が生成される時点で、
電子と陽電子が対生成されるエネルギー量の閾値に達することになります。
すると、それより大きい原子番号の元素の生成においては、
新たな電子と反粒子(antiparticle)※である陽電子が
原子の内部で自然発生するという異常事態が生じてしまうことになり、
我々が知る元素とはまったく異なる未知の構造を持った存在が
生成してしまうことになるのです。
※反粒子(antiparticle)とは、質量は同じでありながら、電荷などの他の性質は通常の粒子(particle)とはすべて正反対となる、言わばこの世界と対となる鏡の世界の異次元の粒子ということになります。
ちなみに、反粒子が構成する事物は物質(matter)ではなく反物質(antimatter)と呼ばれることになりますが、仮にそのようなものが存在するとすれば、質量や見かけの形状は全く同じでありながら、粒子の内的な性質は全てが正反対の存在ということになるので、それは、この宇宙とはあべこべの異世界の物質ということになるかもしれません。
つまり、
仮に、膨大なエネルギーを一つにまとめることに成功して
原子番号173番の元素、すなわち、
陽子と電子が173個ずつ含まれる一なる存在を生成することができたとしても、
それは、生成したと同時に元素とは異なる異次元の構造を持った存在に
転換してしまうことになり、
原子番号174番以降の元素では、
元素として生成すること自体が不可能となってしまうと
考えられることになるのです。
また、
そもそも、現代科学における定義では、元素とは、
物質を構成する基本単位である原子の種類を指す概念ということになりますが、
上記の「反粒子」の注で書いたように、
原子番号174番以降の元素を生成しようとうするときに
その中で自然発生してしまう反粒子である陽電子は、
物質ではなく、その正反対の存在である反物質を構成する存在となってしまうので、
物質を構成する存在であるはずの原子の内部に
反物質の構成要素が出現してしまうことになり、
その時点で、それは、もはや原子の定義も元素の定義も満たさない
まったく異質な異次元の存在になってしまうとも考えられるのです。
・・・
以上のように、
原子番号174番以降の元素を生成しようとすると、
仮に、瞬間的にそれだけの陽子数と電子数をもった何らかの存在を
生成することができたとしても
それは、我々の世界に属する元素とは異なる
全く異なる異次元の存在になってしまうという意味において、
世界に存在するあらゆる物質を形づくる構成要素としての
元素の種類数は、多くても173番の元素までに限られると
考えられることになります。
つまり、
超重質量の元素においては、
陽子数の増加に伴う原子核の不安定性の増大から
元素としての寿命が限りなくゼロになってしまうことと、
たとえ、一瞬でもそうした超重質量の存在を生成することができたとしても
173番の元素を境界として、174番以降の元素では、
生成された存在は未知の構造を持った異次元の存在となってしまい、
そもそもそれは元素ではない別の何かということになってしまうという
二つの理由から、172番か173番の元素が理論上存在しうる
最後の元素とされることになると考えられるのです。
・・・
このシリーズの前回記事:172番か173番の元素が理論上存在しうる最後の元素とされる理由とは?①原子番号の増加に伴う原子核の不安定性による説明
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