エンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスはどちらの方がより危険で強力なのか?外界での生存力と病原性の高さの違い
前回までの記事では、エンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスと呼ばれる二つのウイルスのグループの具体的な特徴や、それぞれのグループに含まれる代表的なウイルスの種類について詳しく考察してきましたが、
それでは、こうしたエンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスと呼ばれる二つのウイルスは、人間にとってどちらの方がより強力で危険なウイルスであると考えられることになるのでしょうか?
外界での生存力という観点から見たノンエンベロープウイルスの優位性
そうすると、まず、
こうしたエンベロープと呼ばれるもともとはウイルスが感染する細胞の生体膜に由来すると考えられる脂質膜は、熱や乾燥あるいは石けんや合成洗剤などの界面活性剤やエタノールといった薬剤によって容易に破壊することができ、
エンベロープウイルスは、こうしたウイルスの表面の層にあたるエンベロープを破壊されると病原体として感染力を失って不活化してしまうことになると考えられることになります。
そして、それに対して、
ノンエンベロープウイルスにおけるウイルス粒子の表面にあたるカプシドと呼ばれるタンパク質の殻は、そうした熱や乾燥あるいは一般的な消毒薬に対して比較的強い耐性を持っているので、
一般的に、
ウイルス粒子が外界に存在している時には、エンベロープを持たないノンエンベロープウイルスの方が、エンベロープを持つエンベロープウイルスよりも消毒や不活化させることが難しく、長期間にわたって感染力を保ち続ける傾向があると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
こうした外界におけるウイルス生存力といった観点からは、エンベロープウイルスよりもノンエンベロープウイルスの方が生存力の強い強力なウイルスと見なすことができると考えられることになるのです。
HIVウイルスやエボラウイルスといった致死性の高いウイルスの種類を数多く含むエンベロープウイルス
しかし、その一方で、
こうしたエンベロープと呼ばれるもともとは細胞の生体膜に由来するウイルス粒子の表面にあたる膜構造がその真価を発揮することになるのは、ウイルスが感染する対象となる生物の体内へと入ってからのことであると考えられ、
人間の体内へと侵入したエンベロープウイルスは、自分の宿主となる感染細胞の細胞膜に対してこうしたエンベロープと呼ばれる膜構造を融合させることによって、
ウイルスの遺伝子をより効率的な形で細胞内へと送り込む、あるいは、宿主となる生物の側の免疫システムを回避することによって感染者となった人間の体内のさらに奥へと侵入していくといった様々な働きを見せていくことになります。
したがって、全体的な傾向としては、
こうしたエンベロープと呼ばれる人間の体内において複雑な働きをする特殊な膜構造を持たないノンエンベロープウイルスの場合と異なり、
そうしたエンベロープと呼ばれる膜構造を持つエンベロープウイルスには、インフルエンザウイルスやコロナウイルスなどといった急性の呼吸器の症状を引き起こす感染力が強いウイルスの他にも、
エイズの原因となるHIVウイルスや、エボラ出血熱の原因となるエボラウイルス、さらには、天然痘ウイルスなどといった多様な症状を引き起こす致死率が高いウイルスなども数多く含まれることになると考えられることになるのです。
そして、そういった意味では、
こうしたエンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスにおける特性の違いを互いに比較していった場合、
確かに、外界における生存力の強さといった観点においては、ノンエンベロープウイルスの方が優れている点もあるものの、
ウイルスそのものの病原性の強さや、人間の体内へと侵入した後の宿主細胞や人間の側の免疫システムに対するウイルスの側の複雑な対応力といった観点も含めて考えていくと、
やはり、総合的に見た場合には、
世界最大のパンデミックを引き起こした1918年のスペイン風邪の原因となったインフルエンザウイルスや、
SARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスさらにはSARSコロナウイルス-2とも呼ばれる新型コロナウイルスといった致死性の高い変異株を持つコロナウイルス、
さらにはHIVウイルスやエボラウイルスなどといった致死率の高い危険なウイルスの種類が数多く含まれているエンベロープウイルスの方がノンエンベロープウイルスよりも危険で強力なウイルスのグループとして位置づけられることになると考えられることになるのです。
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次回記事:エンベロープウイルスとノンエンベロープウイルスの違いと代表的なウイルスの種類のまとめ
前回記事:ノンエンベロープウイルスの具体的な特徴と代表的な種類とは?小さな球形のウイルスのグループと細長い棒状のタバコモザイクウイルス
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