ネココロナウイルスとイヌコロナウイルスの具体的な特徴と再感染のリスクと抗体依存性感染増強作用の問題
前回書いたように、コロナウイルスと呼ばれるウイルスの種族は、もともとは、コウモリや鳥を自然宿主としていたウイルスであると考えられていて、
人間以外の動物に感染するコロナウイルスの代表的な種類としては、コウモリに感染して主に呼吸器系の症状を引き起こす全部で七種類にもおよぶコウモリコロナウイルスを筆頭に、鶏伝染性気管支炎ウイルスや豚流行性下痢ウイルスといったウイルスの種類が挙げられることになるのですが、
そうした人間以外の動物に感染するコロナウイルスのなかでも、犬や猫などのペットに対して感染症を引き起こす原因となるコロナウイルスの代表的な種類としては、
イヌコロナウイルスとネココロナウイルスと呼ばれる二種類のコロナウイルスの名が挙げられることになります。
イヌコロナウイルスの具体的な特徴と消化器系と呼吸器系の二種類の症状
そして、このうち、
前者のイヌコロナウイルスと呼ばれるウイルスは、世界各地に広く分布している犬に感染するコロナウイルスの一種にあたり、
こうしたイヌコロナウイルスと呼ばれるウイルスは、犬の小腸の粘膜の上皮細胞を中心とする組織で増殖していくことによって、
通常の場合、感染した犬に下痢や嘔吐や食欲不振などといった軽度から中程度の消化器系の症状を引き起こしていくことが多いと考えられることになります。
しかし、その一方で、
こうしたイヌコロナウイルスが分類されるコロナウイルスと呼ばれるウイルスの種族は、同じウイルスの中でもエボラウイルスやデングウイルスなどとも同じ一本鎖プラス鎖RNAウイルスに分類される突然変異を起こしやすいウイルスの種族にあたり、
ウイルスが感染した犬の体内において増殖していく際に、しばしば、より毒性の高いウイルスへと突然変異を起こすことによって、致命的な胃腸障害を引き起こすことがあるほか、
イヌコロナウイルスに分類されるウイルスのなかでも、人間に対して感染するヒトコロナウイルスと比較的近い遺伝子配列を持つウイルスのなかには、
人間に感染するコロナウイルスの場合と同じように、風邪や肺炎などといった呼吸器系の症状を引き起こすことがあるという報告もなされています。
ネココロナウイルスの具体的な特徴と猫伝染性腹膜炎への突然変異
そして、それに対して、ネココロナウイルスと呼ばれるウイルスは、世界各地に広く分布している猫に感染するコロナウイルスの一種にあたり、
こうしたネココロナウイルスと呼ばれるウイルスは、通常の場合は、前述したイヌコロナウイルスの場合と同様に、猫の小腸の粘膜の上皮細胞を中心とする組織で増殖していくことによって、
感染した猫に、軽度の消化器系の症状を引き起こすことがあるほか、ほとんど無症状のままウイルスを保持し続けていくケースもあることが報告されています。
しかし、
こうしたネココロナウイルスと呼ばれるウイルスは、しばしば、ウイルスが感染した猫の体内において増殖していく際に、より毒性の高いウイルスへと突然変異を起こすことによって、
猫伝染性腹膜炎と呼ばれる致死率が高い病態が引き起こされてしまうケースがあると考えられることになるのです。
ネココロナウイルスにおける再感染のリスクと抗体依存性感染増強作用
また、
こうしたイヌコロナウイルスやネココロナウイルスと呼ばれるウイルスは、前述したように、そもそも、
コロナウイルスという一本鎖プラス鎖RNAウイルスに分類されるウイルスの種族そのものが様々なウイルスの種類のなかでも特に突然変異を起こしやすいウイルスの種族にあたることもあり、
ウイルスに感染して一度は治癒した後でも、抗原抗体反応を中心とする後天性免疫の効力が短期間で失われてしまうことによって、同じウイルスに再感染してしまうリスクや、完全に治癒する前に病状が再燃してしまうケースもあると考えられることになります。
また、
特に、後者のネココロナウイルスの場合には、デングウイルスなどの場合と同様に、抗体依存性感染増強作用または抗体介在性感染増強作用(ADE)と呼ばれる現象が引き起こされるケースもあることが知られていて、
こうした抗体依存性感染増強と呼ばれる現象においては、ウイルスの側が人間の体内で大量に生産された抗体のタンパク質構造を標的として、細胞に付着した抗体を架け橋として新たな細胞内にウイルスが侵入していくことによって、
同じウイルスに対して、初回感染時よりも再感染時の方がかえって病状が悪化してしまうといった厄介な現象が引き起こされてしまうこともあると考えられることになるのです。
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次回記事:コロナウイルスの四つのグループとは?分類される代表的なウイルスの種類と具体的な特徴
前回記事:人間以外の動物に感染するコロナウイルスの代表的な種類とは?コウモリと鳥を自然宿主とするコロナウイルスの起源
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