月の地平視差を利用した地球と月の距離の計算方法とは?太陽系内の天体の距離を概算する実用的な観測データとしての日周視差
前回の記事では、太陽視差と呼ばれる地球の自転運動の影響によって生じることになる日周視差を利用した地球と太陽の距離の算出方法のあり方について詳しく検討したうえで実際に計算を行ってみましたが、
今回の記事では、せっかくなので、
今度は地球と月の距離についても、前回の記事で用いた計算手法と同じ天体観測における日周視差を利用した計算手法を用いることによって、そのおおよその値を算出していってみたいと思います。
月の地平視差を利用した地球と月の距離の計算方法
そうすると、まず、上記の図において示したように、
月の日周視差のあり方は、一日における地球の自転運動のなかで、観測地点の位置が地球の中心である地心と、地球上の観測地点と、観測対象である月という三点を結ぶ三角形が観測地点の角において90度となる直角三角形によって結ばれる地点へと到達したとき、
すなわち、地球から見て観測対象となる天体である月が地平線上に沈んでいく地点へと到達したときに視差が最大化することになり、
こうした月の日周視差が最大化する地点において観測されることになる視差のあり方は、天文学においては月の地平視差と呼ばれることになります。
そして、前々回の記事でも書いたように、
こうした月の地平視差の値は、角度の度分秒表記のあり方において、およそ57分2.608秒、すなわち、通常の度数表記のあり方においては0.950724度というほとんど1度に近い天体観測においては比較的大きな角度として観測されることになるのですが、
こうした月の地平視差と呼ばれる視差の角度の値からは、前回解説したものと同じ三角関数と直角三角形の関係を利用した計算手法を用いることによって、具体的には以下のような形で、地球と月の間の距離を計算していくことができると考えられることになります。
三角関数と直角三角形の関係を利用した地球と月の距離の概算
上記の図において示したように、
月の地平視差が観測されることになる地球上の観測点において形成されることなる地球の中心である地心と、地球上の観測地点と、観測対象である月という三点を結ぶ直角三角形において、
地球の半径にあたる辺の部分を直角三角形の高さb=6371 km、
月の地平視差にあたる角の部分を直角三角形の底辺の角度θ=0.950724度
としたうえで、
上記の直角三角形の底辺にあたる地球上の観測点からの地球と月の距離をaとした場合、
三角関数および三角比におけるtan(タンジェント)の定義から、上記の直角三角形においては、
tanθ=b/a
という関係が成立することになると考えられることになります。
そして、任意の角度θに対するtanθの値は、上記のtanθ=b/aという三角比の関係から逆算していくことによって、三角関数表やエクセルのTAN関数のような形で予めすべて計算によって導き出していくことができ、
角度θ=0.950724度のときのtanθの値は約0.0165947871554になることが分かっているので、
したがって、
上記のtanθ=b/aという基本式にこうした地球の半径bと月の地平視差θのタンジェントの値をそれぞれ代入していくことによって、
tanθ=b/a
0.0165947871554=6371/a
a=6371÷0.0165947871554
a≒383916km
すなわち、
地球と月の距離a≒38万3916km
という値を得ることができると考えられることになります。
そして、現代の天文学においては、
実際の地球と太陽の距離は約38万4400 kmであることが分かっているので、
上述した月の地平視差と三角関数を利用した概算において求めた38万3916kmという値は、こうした地球と月の距離をある程度正確に指し示している適切な概算値となっているということが確認できることになると考えられることになるのです。
太陽系内の天体との距離を概算するのに役立つ実用的な観測データとしての日周視差と地平視差の位置づけ
そして、以上のように、
こうした日周視差やその最大値にあたる地平視差といった地球の自転運動の影響に基づく視差のあり方は、
それが単に天体観測において生じる観測の角度のずれのあり方を示しているという直接的な意味だけにとどまらず、
その視差の角度の具体的な値からは、観測地点にあたる地球と太陽あるいは地球と月といった地球と比較的近い距離にある天体との距離を概算していくこともできると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
こうした日周視差や地平視差と呼ばれる天文学の分野における視差のあり方は、
太陽や月あるいは金星や火星などの惑星などといった地球と比較的近い距離にある太陽系内の天体の運行のあり方についての天文学的な知識を得ていくために幅広く利用していくことができる実用的な観測データとしても位置づけられることになると考えられることになるのです。
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次回記事:年周視差とは何か?地球の公転運動との関係と太陽系外の恒星において観測される具体的な年周視差の大きさ
前回記事:太陽視差を利用した地球と太陽の距離の計算方法とは?三角関数と直角三角形の関係を利用した地球と太陽の距離の概算
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