法の女神テミスと正義と秩序と平和と司る三姉妹の女神の関係とは?自然法則と道徳法則の両者を同時に司るギリシア神話の神々
前回の記事で書いたように、現代においても司法や裁判における公正さのシンボルとして描かれていることが多い正義の女神の像の題材となった女神としては、
ローマ神話における正義の女神ユスティティアと同一視されているギリシア神話における法の女神テミスの存在が挙げられることになるのですが、
より正確には、こうしたギリシア神話の物語のなかでは、法の女神テミスは、それぞれに正義と秩序と平和とを司るとされているディケーとエウノミアーとエイレーネーと呼ばれる三姉妹の女神の母にあたる存在としても位置づけられていくことになります。
それでは、
こうした古代ギリシア神話における法の女神テミスと、正義の女神ディケーと秩序の女神エウノミアーと平和の女神エイレーネーと呼ばれる三姉妹の女神は、それぞれ互いにどのような関係性のうちに位置づけられていると考えられることになるのでしょうか?
自然界における季節の循環と秩序とを司るホーライの三女神としてのディケーとエウノミアーとエイレーネーの三姉妹の位置づけ
そうすると、まず、ギリシア神話の物語のなかでは、
こうした法の女神テミスとギリシア神話における主神ゼウスとの間に生まれたとされているディケーとエウノミアーとエイレーネーと呼ばれる三姉妹の女神たちは、通常の場合は、
季節を司る三女神として位置づけられているホーライの女神たちとしても総称されていくことになります。
そもそも、
古代ギリシア語において、ホーライ(Horai)とは、「時間」のことを意味するホーラ(Hora)という単語の複数形にあたる言葉であり、
そういった意味では、
こうした法を司る女神テミスから生まれたとされる正義と秩序と平和を司る三姉妹の女神たちは、もともとは、
一年という時間の流れのなかで、春夏秋冬という季節が規則正しく順番にめぐっていくことになるという自然界における季節の循環と秩序とを司る女神たちとして位置づけられている存在であったと考えられることになるのです。
人間界における正義と秩序と平和という三つの理念の関係と自然法則と道徳法則の両者の根源に存在する普遍的な法と秩序
そして、
こうした自然界における季節の循環といった秩序のあり方といった問題からいったん離れて、今度は、人間界において成立する秩序のあり方へと目を向けていった場合、
そうした人間が暮らす社会のうちにおいては、何が正しい行為であるとして認められ、何が悪しき行為として退けられることになるのかという、一般的には、
正義といった言葉において表現されることになる道徳的な基準に基づいて、人間が暮らす社会のうちに一定の秩序がもたらされていくことになり、
そうした正義の理念に適った道徳的に正当な秩序によって、人々が互いに傷つけあったり不当に苦しめられたりすることがなく、互いに節度をもって平穏に暮らしていくことができる戦乱や犯罪行為による治安の乱れが存在しない平和が実現した社会が形づくられていくことになると考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
前述したような自然界における太陽や月といった天体の規則的な運行によってもたらされることになる天上の世界に由来する季節の循環といった秩序のあり方が、地上の世界に生きている人間たちの生活においても同様に適用されていくことによって、
こうしたディケーとエウノミアーとエイレーネーと呼ばれる三姉妹の女神たちが司るとされている正義と秩序と平和と呼ばれる互いに関係の深い三つの理念が人間たちが暮らす地上の世界においても実現されていくことになると捉えていくことができると考えられ、
そうしたギリシア神話の物語においては、
こうした法の女神テミスと、その娘たちにあたるディケーとエウノミアーとエイレーネーと呼ばれる正義と秩序と平和を司るとされる三姉妹の女神たちは、
一年の時間の流れのなかにおける季節の循環といった自然界における秩序と、人間が暮らす社会のなかで成立する正義と秩序と平和という三つの理念に象徴されるような人間界における秩序、
すなわち、自然法則と道徳法則と呼ばれるような世界を司る二つの法則や秩序のあり方の両方の根源に存在する普遍的な法と秩序を司る女神たちとして位置づけられていると考えられることになるのです。
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次回記事:ギリシア神話における運命を司る三人の女神の具体的な特徴は?クロートーとラケシスとアトロポスが司る人間の寿命と運命の糸
前回記事:正義の女神とは何か?ギリシア神話における法の女神テミスとローマ神話における正義の女神ユスティティアとの関係
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