風の谷のナウシカと粘菌との関係とは?②「個にして全、全にして個」という生命の本質を体現する粘菌という生命体の構造

前回書いたように、漫画版の『風の谷のナウシカ』のなかでは、その長い物語の中盤の場面において、

土鬼軍がトルメキア軍を倒すために開発した生物兵器として、粘菌と呼ばれる異形の姿をした生命体が登場することになります。

そして、

こうした『風の谷のナウシカ』における粘菌の姿からは、その後の物語の展開の流れなどとの関連などを通じて、

生命自体の本質へと迫っていくようなより深い意味を読み解いていくこともできると考えられることになります。

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粘菌の変異体の姿を通して語られる生命の本質についてのナウシカの洞察

冒頭でも述べたように、『風の谷のナウシカ』において、粘菌と呼ばれる生物が物語の流れの中心に位置づけられるのは、

トルメキア軍を倒すための生物兵器として開発されたはずの粘菌の変異体が、制御不能の状態になることによって、研究施設があった土鬼軍の戦艦の外部へと飛び出して大地を喰い尽くし、土鬼帝国の領土の大部分が腐海の森のうちへと没してしまうという惨劇が描かれる物語の中盤における場面であると考えられることになるのですが、

その一方で、

漫画版の『風の谷のナウシカ』の最終巻にあたる第七巻においても、こうした粘菌と呼ばれる生物についての言及がなされている場面が一か所だけ存在し、

そこでは、腐海の森を旅する森の人であるセルムという名の青年とナウシカの間で交わされる以下のような会話の流れの中で、この物語の全編を通じた主要テーマとなっているともいえる生命の本質についての深い洞察が進められていくことになります。

・・・

セルム「森はひとつの聖なる生命体と私達は感じて来ました。」

ナウシカ「わたし、いまもそう感じています。個にして全、全にして個ある偉大な王蟲がそう教えてくれました。」…

ナウシカ「たとえ、どんなきっかけで生まれようと生命(いのち)は同じです。…」「精神の偉大さは苦悩の深さによって決まるんです。粘菌の変異体にすら心があります生命はどんなに小さくとも外なる宇宙を内なる宇宙に持つのです。」

(『風の谷のナウシカ』第七巻、132~133ページ。)

つまり、物語の終わりも近い、漫画版の『風の谷のナウシカ』の上記の場面においては、

こうした粘菌の変異体という異形の姿をした生命体が一つの例として挙げられることによって、

「個にして全、全にして個」、そして、生命の内なる宇宙が外なる宇宙へと通じるという古代インドのウパニシャッド哲学における梵我一如の思想を連想させるような生命観が語られていると考えられることになるのです。

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「個にして全、全にして個」という生命の本質をそのまま体現する粘菌という生命体の構造

ところで、

こうした粘菌と呼ばれる生物の具体的な特徴については、前回の記事でも書いたように、

粘菌は、成長していく際に、細胞分裂を伴わない形で核分裂を行っていくことによって、一つの細胞の内に無数の核が存在する多核体の構造を持った生物体へと成長していくことになるのですが、

そうした粘菌の細胞内における個々の核は、自らの内的なプロセスにしたがって分裂を繰り返し、他の核から切り離された場合でも単独で生命活動を維持していくことができるといった点において、一つの自律的な生命体として活動していると捉えることができるのに対して、

そうした一つ一つの核が寄せ集まり、周囲の細胞質が互いに融合することによって形成されている粘菌の細胞体全体もまた、当然のことながら一つのまとまった生命体を形成していると考えられることになります。

つまり、そういった意味では、

こうした粘菌と呼ばれる生物の生命体としての構造のあり方は、まさに、

細胞体の内部における個々の核も一つの生命体として活動している存在でありながら、そうした無数の核の集合体としての細胞全体もまた一つの生命体として生きているという、

上記のナウシカの言葉において示された「個にして全、全にして個」という生命の本質を、そのまま体現するような存在のあり方をしていると捉えることができると考えられることになるのです。

そして、さらに言うならば、

漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、

細胞体の内に存在する一つ一つの核それぞれが個体的生命として生きることができる能力を持った存在でありながら、

そうした一つ一つの核が集合して形成される細胞全体もまた全体的生命としての生を営んでいるという、こうした粘菌の生物学的な特徴が予め念頭に置かれることによって、

あえて、こうした粘菌と呼ばれる奇怪な生物の存在が、物語の中盤における主要なテーマとして取り上げられることになったとも考えられることになるのです。

・・・

次回記事:風の谷のナウシカとギリシア神話の王女ナウシカの関係とは?①『オデュッセイア』におけるパイアキアの王女ナウシカの記述

前回記事:風の谷のナウシカと粘菌との関係とは?①土鬼軍の生物兵器として開発された粘菌の変異体についての漫画版における具体的記述

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