DNAなのに一本鎖の遺伝子構造を持ったウイルスとRNAなのに二本鎖の遺伝子構造ウイルスとは?DNAウイルスとRNAウイルス⑩

このシリーズの初回の記事でも書いたように、

ウイルスの種類は、ウイルスが持つ遺伝子の構造に基づく大枠の分類においては、DNAウイルスRNAウイルスという二つの種類に大別されることになります。

そして、

生物の細胞におけるDNAやRNAがそうであるように、ウイルス遺伝子におけるDNAとRNAの構造についても、

通常は、DNAウイルスの遺伝子は二重らせん構造の二本鎖の構造をしているのに対して、RNAウイルスの遺伝子は一本鎖の構造をとることになります。

しかし、

生物を構成する最小単位である細胞よりもさらに小さいミクロの世界の住人であり、生物の細胞に寄生することによってしか増殖することができない半身は生物で半身は無生物という極めて特異な存在であるウイルスにおいては、

DNAウイルスでありながら二本鎖の構造は持たず、その反対に、RNAウイルスでありながら一本鎖の構造を持たないといった例外的な遺伝子構造を持ったウイルスも存在することになるのです。

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DNAなのに一本鎖のウイルスとRNAなのに二本鎖のウイルス

冒頭で述べたように、

ウイルスの遺伝子構造の大枠の分類としては、DNAウイルスRNAウイルスの二種類に大別することができると考えられるのですが、

ウイルスの遺伝子は、宿主となる生物のDNAに寄生するための方策として様々なバリエーションに富んだ形態をとることになるので、

厳密に言うと、ウイルスの遺伝子構造の分類は、

DNAデオキシリボ核酸)かRNAリボ核酸)かという遺伝子を構成する遺伝物質の違いのほかに、

二本鎖かそれとも一本鎖かという遺伝物質がとる立体構造の違いや、一本鎖RNAを用いる場合の遺伝子が直接読み取られる側か鋳型の側かの違いとしての+鎖と鎖の違い

そして、逆転写酵素と呼ばれるRNAの側からDNAを合成する酵素を使ってウイルスのRNA遺伝子を宿主細胞のDNA遺伝子に直接組み込むことができる機能の有無などに応じて、

ボルティモア分類と呼ばれる七つほどの下位分類にさらに細かく分けられることになります。

そして、こうしたウイルスの遺伝子構造の下位分類の中には、

生物におけるような通常のDNAやRNAの構造とは異なり、DNAウイルスでも二本鎖ではなく一本鎖の構造を持ったウイルスや、その反対に、RNAウイルスでも一本鎖ではなく二本鎖の構造を持ったウイルスも存在するのですが、

一本鎖DNAウイルス二本鎖RNAウイルスも、通常の二本鎖DNAウイルスや一本鎖RNAウイルスと比べると例外的な遺伝子構造を持ったウイルスということになるので、

両者とも、人間の世界で広く流行するウイルスの中にはあまり見られない、どちらかと言えばマイナーな方の分類ということになります。

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一本鎖DNAウイルスの代表例と二本鎖RNAウイルスの代表例

しかし、それでも人間社会と比較的関わりのある一般的な感染症を引き起こすウイルスをそれぞれの種類のウイルスの代表例として挙げるとするならば、

一本鎖DNAウイルスの代表例としては、

別名猫ジステンパーとも呼ばれる猫汎白血球減少症(ねこはんはっけっきゅうげんしょうしょう、FPL)などを引き起こすウイルスであるパルボウイルスParvovirus)の名が挙げられることになります。

ジステンパーdistemper)とは、本来、イヌジステンパーウイルスというパルボウイルスとはまったく別のウイルスを原因とする犬などに多く見られる急性のウイルス感染症のことを指す言葉であり、

ジステンパーは、発症すると高熱とリンパ組織の破壊により白血球の減少を引き起こし、下痢や嘔吐、免疫力低下による二次感染痙攣や麻痺などの神経症状などによって致死率が90%近くにものぼる、犬に関連する病気としては狂犬病に次いで危険性の高い感染症となっています。

そして、

猫汎白血球減少症猫ジステンパー)は、そのジステンパーのいわば猫版の症状を引き起こすウイルスということになるのです。

ちなみに、

パルボウイルス(Parvovirus)のparvoパルボ)とは、ラテン語で「小さい」を意味する形容詞parvusパルウス)を語源とする言葉であり、

ラテン語では通常vの発音は「」ではなく「と発音されるので、ラテン語でのparvusの発音は、「パルヴス」ではなく「パルウス」となります。

その名の通り、パルボウイルスは、直径20nmナノメートル)程度というウイルスの大きさの分類の中でも最も小さいグループに属するウイルスとなっています。

ウイルスの一般的な大きさは、小さいものでは数十nmから、大きいものでは数百nm程度とされています。

そして、それに対して、

二本鎖RNAウイルスの代表例としては、レオウイルスReovirus)の名が挙げられることになりますが、

レオウイルス科に属するウイルスの中には、例えば、胃腸炎の原因となるロタウイルスRotavirus)などが分類されることになります。

ロタウイルスは、ノロウイルスやエコーウイルスなどと同様にウイルス性胃腸炎の原因となるウイルスですが、

特に、乳幼児に重篤な下痢の症状を引き起こす危険性があることで注意が必要となるウイルスとなっています。

・・・

以上のように、

ウイルスの場合には、生物の細胞におけるような通常の遺伝子構造とは異なり、

DNAなのに二重らせん構造ではなく一本鎖の遺伝子構造を持ったウイルスや、RNAなのに一本鎖ではなく二本鎖の遺伝子構造を持ったウイルスが存在することになります。

そして、

一本鎖DNAウイルスの代表例としては、猫ジステンパーとも呼ばれる猫汎白血球減少症の原因となるパルボウイルスなどが挙げられ、

 二本鎖RNAウイルスの代表例としては、乳幼児に重篤な下痢の症状を引き起こす危険性のあるロタウイルスなどが挙げられることになるのです。

・・・

次回記事逆転写酵素とは何か?ウイルスが細胞の遺伝情報を書き換えていく具体的な仕組みとは?

このシリーズの前回記事:レベル4に分類される出血熱ウイルスの種類と致死率、RNAウイルスの代表的な種類⑤、DNAウイルスとRNAウイルス⑨

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