相対性理論において時間の遅れが生じる具体的な仕組みとは?野球のボールと光の進み方の違い
前回書いたように、アインシュタインの特殊相対性理論においては、ローレンツ因子と呼ばれる係数に比例する形で時間の遅れが生じると考えられることになります。
そこで、まずは今回は、こうしたローレンツ因子と呼ばれる係数の値の具体的な計算方法に入る前に、
相対性理論において、観測地点とは異なる等速度運動の状態にある物体において、物体の動きが速くなればなるほどその物体の内部における時間の進み方が遅くなる仕組みについて、
異なる慣性系同士の観測において生じる光の進み方の違いを、列車内のキャッチボールにおいて観測される野球のボールの進み方の違いにたとえることによって、より分かりやすく図解していく形で考えてみたいと思います。
等速度運動の状態にある列車内における野球のボールの進み方の観測
例えば、
東京タワーのような高い塔の下に、真っ直ぐな線路が横に一本ずーっと敷いてあるとして、その上を車両の天井がガラス張りになった列車がずっと同じ速度で走っていくとします。
そして、そのガラス張りの列車内で、二人の子供が下図の二つの丸印が記された地点にそれぞ立って、二人で野球のボールを使ってキャッチボールをはじめるとします。
すると、
例えば、加速や減速の状態にない等速度運動中の列車の車内においては、地上にいるのとまったく同じように平然とイスに腰かけたり、列車の進行と逆方向に歩いていくことも可能であるように、
等速度運動の状態にある列車内では、慣性の法則に基づいて、静止状態にある地上とまったく同じように物理法則が働くことになるので、
列車内においては、地上でキャッチボールをした場合とまったく同じように、野球のボールの軌道は列車の進行方向に対してちょうど垂直になる形で真っ直ぐに進んでいるものとして観測されることになります。
静止状態にある地上から見た列車内における野球のボールの進み方の観測
それに対して、
こうした等速度運動の状態にあるガラス張りの列車内で行われているキャッチボールを、静止状態にある地上に位置する展望台の上から見下ろして観測する場合、
上記のキャッチボールにおける野球のボールの軌道は、電車内において観測された軌道とはまったく異なる形で観測されると考えられることになります。
上図で示したように、静止状態にある地上から観測された場合、等速度運動の状態にある列車内でボールが投げられてから、もう一方の側へとボールが到着するまでの間に列車自体も大きく移動していると観測されることになるので、
そうした列車の移動の分も合成された距離が、地上から見た場合のボールが移動した距離として観測されることになります。
つまり、
地上においては、上記のキャッチボールにおける野球のボールの軌道は、ボールが投げられてから到着するまでの間に列車が移動する分だけより長くなり、
上図で示したような形で斜めにより長く進んでいるものとして観測されると考えられることになるのです。
異なる慣性系同士の観測において速度が変化するボールと時間が変化する光
以上のように、
等速度運動の状態にある列車内において行われているキャッチボールを静止状態にある地上から観測した場合、野球のボールの進み方は、
列車内で観測されるような列車の進行方向に対して垂直の真っ直ぐな軌道ではなく、
列車の移動した分の距離が合成される形で、斜めにより長く進んでいると観測されることになります。
そして、野球のボールのような通常の物体の場合には、光の場合とは異なり、速度が常に一定となるといった特別な法則が働くことはないので、
等速度運動の状態にある列車の内部において行われているキャッチボールを静止状態にある地上から見た場合、下図で示したように、
地上からは、列車内で見たボールの移動速度よりもより速い速度でボールが移動しているように観測されることになるのです。
これに対して、
観測される対象が光である場合には、相対性理論の根本原理である光速度不変の原理が適応されることによって、静止状態や様々な等速度運動の状態といったあらゆる慣性系同士において光の速さは常に一定の速度として観測されることになるので、
光の場合には、上記の野球のボールを使ったキャッチボールの場合のように、等速度運動の状態にある慣性系内で見た場合よりも、その外にある静止状態にある慣性系から見た場合の方が光の進み方がより速い速度で観測されるといったことはあり得ないと考えられることになります。
それでは、光の場合には、等速度運動の状態にある慣性系S’が移動した分、静止状態にある慣性系Sから見てより長い距離を移動することになる光の進み方は、具体的にどのような形で観測されることになるのか?ということですが、
それについては、光速度不変の原理に基づいて速度が変化することができない分、等速度運動の状態にある慣性系S’の内を進む光は、
静止慣性系Sから見た場合、慣性系S’の内部で観測されるよりもより遅れて光が到着するように観測されると考えられることになります。
下図において示したように、慣性系S’の内部においてB地点からC地点まで光が移動した時点では、慣性系Sからの観測では光はまだC地点に到達する前の途上地点までしか進んでいないということになるので、
その分時間自体がよりゆっくりと進んでいるように観測されることになるのです。
以上のように、
静止状態にある慣性系から等速度運動の状態にある慣性系内における光の進み方を見た場合、光が進む距離が長くなっているにもかかわらず、光の速度の方は変化しない分、時間の方がゆっくりと進むことになってしまうと考えられることになります。
そして、等速度運動を行っている慣性系S’の速度vが速くなればなるほど、慣性系Sから見た場合の光が進む距離もどんどん長くなっていくことになるので、
それに比例して、高速で運動する物体においては速度が速くなればなるほど時間の遅れ方もどんどん大きくなっていくと考えられることになるというのが
相対性理論において時間の遅れが生じる具体的な仕組みであると考えられることになるのです。
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次回記事:特殊相対性理論における時間の遅れのピタゴラスの定理を用いた計算方法
関連記事①:相対性理論における時間の遅れが日常世界において観測できない具体的な理由とは?ボールと列車と光の速度の比較
関連記事②:相対性理論において光の到達の遅れが時間の遅れに直結する理由とは?
前回記事:ローレンツ収縮とエーテル理論との関係とフィッツジェラルドによる同一仮説の先駆的提唱、ローレンツ因子の由来とは?③
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